第55話 まおうさま?

「リーン、ありがとう。世話になった」

「ううん。それはこちらのセリフ」

「じゃあ、スライム達を分けようか」


 僕とリーンで白いスライムを分ける。


「これで何かあった時の連絡がスムーズに行くね」

「そうね。何かが起こらなけばいいのだけれど」

「ははは、そうだね」


 僕達はリーン達に見送られ、次の都市、クルイドへと向かった。


 ◆


 旅の途中、僕達はたくさんの人が集まっている場所を見つけてしまった。


「なんじゃ? あれは」

「近くに行かないとわからないな」

「行くのじゃ」

「あああ、待ってクルル」


 ◇


「お好み焼き大食い選手権?」

「ホントか。わらわはもっとお好み焼きを食べたい」

「……参加するのね」


 ◇


「みなさーーん、こんにちはーー。今日は待ちに待った。お好み焼き大食い選手権が開催されまーす」



「優勝者にはヘンダーソンリゾートホテル三泊四日ペア宿泊券」

「準優勝にはトイレットペーパー一年分」

(やはり、一位じゃないとダメなんですね。二位じゃダメ)


「三位の方にはポケットティッシュが贈呈されまーす」



「わらわはワクワクする。ラルフ見てるのじゃ!!」


 ◇


「制限時間は三百秒です!」

(五分だよな。大食いじゃなく、早食いなのでは……)


「よーい、スタートォーー」


 ◇


 結果は、ぶっちぎりでクルルの勝利。贈呈式でトイレットペーパーとポケットティッシュを焼いてしまったのは別のお話。


 ◆


 旅は順調そのもの。そして僕達は帝国第三の都市クルイドに着いた。


「ラルフ、ここは凄いのう」

「あぁ、この都市は奴隷に支えられて発展したんだ」

「そうなのか?」

「そう。ディア、クルル、宿を取る前に花屋に寄っていいか?」


 僕は花屋に行き、花束を買った。そして、お世話になった宿屋へと向かう。


 ◆


「おう、あれ? 確かお前、あの時の」

「はい、そうです。その節は大変ご迷惑をおかけしました」

「いやいや、迷惑とは思っちゃいないよ。それより泊まるんだろ」

「はい。それで女将さんにこの花を」

「そうか、ありがとうな」

「僕達のせいで女将さんは」

「んや、お前らのせいじゃない。裏でコソコソやっていたあいつ等が悪い」

「……」

「お前は家内の仇討をしてくれたんだ。俺がむやみやたらに呪わないように。それに、花を貰って嬉しいと思うぜ。忘れてしまう人が多いだろうにさ」


 ◆


「そんなことがあったの」

「あぁ、自分らのことしか考えていなくて巻き込んでしまった」

「そっかぁ、でもヤンがいたから――」

「あぁ、それでも悔いは残っている。もう女将さんは戻ってこないから」


「ほぉ。そんなものなのか。人間は難儀な生き物なんじゃのう」


 そのような話をしていると、僕は背中に何かを感じた。


「クルル、嫌な予感がする。今夜は気をつけよう」


 ◇◆◇◆


『いいか、男は確実に殺せ。女子供は捕まえろ、無理なら殺して構わん』


 ◇◆◇◆


「ラルフ、これでいいかのう」

「あぁ、助かったよ」


 クルルのお陰で夜襲を返り討ちにすることができた。全員お縄だ。


(えっ! なんで主人がいる?)


 宿屋の主人は僕を物凄い形相で睨んでいた。


「なんで……」

「お前のせいでな、家内と弟が死んだんだ」

「えっ、弟?」

「東奴隷会館で奴隷の世話をしていたんだよ。アイツはなんにも悪いことはしていないのに」

「……」

「お前がエルフなんか連れてこなきゃ、家内は死ななくてすんだ。それに、お前はダークエルフを唆して、弟も死んだ」

「……」

「わかるか。俺が、どんな思いで過ごしてきたのか」

「……」

「よくもまあ、俺の前にこれたな。慇懃無礼いんぎんぶれいだぞ」



「ラルフ、ここはわらわに任せてくれんかの」


 ◆


「そうか」

「あぁ、跡形も無く焼き切ったぞ」

「……」

「恨みは連鎖する」

「……」

「だから恨まれるは、わらわだけでいいのじゃ。これでも魔王じゃからな」

(結局、僕は自分のことばかりで、誰も幸せになんかしていないんだ)


「ラルフ」「パーパ」「……」


 僕の左手にはディア、右手に娘が。大丈夫だと言わんばかりに静かに寄り添ってくれた。


 ◆


 僕は苦々しい思いが消えぬまま。クルイドを立った。家族に支えられているから、なんとか保っていられるが。一人だったら罪悪感にさいなまれるだろう。


「ラルフ、これから何処にいくのじゃ?」

「国境の町に行く」

「ほぅ」

「あぁ」


 僕は気丈に振舞ったが、傍からみると、落ち込んでいるように見えるのだろう。


「パーパ、パーパ」「キャッキャ」

(ありがとうな。リー、カイ)


 ◆


 道中はクルルに任せておけば何の問題もない。万が一に備え、ディアにエンチャントを、僕は自分自身に身体強化をかけておく。


「しまった。一匹逃してもうた」

「ホーリーアロー!!」

(そうだ、ディアは攻撃系の魔法も使えるんだっけ)


 ◆


「うぇーーん」「ぉぎぁ」

(まあ、高いところは怖いよな)


 僕達は国境の町リバーソンに着いた。



「「「「3! 2! 1!」」」」



「フォーーーーーア!!」

(バンジージャンプ。やっているな)


「ラルフ、あれは何をやっているのじゃ?」

「バンジージャンプだよ。度胸試しに飛ぶんだ」

「おもしろそうじゃ。わらわも飛ぶぞ」

(えっ)


 クルルは橋の上にも行かず。ゴム縄も着けず。目の前にある峡谷に身を投げた。

(なにしてんの魔王)


 少し時間が経つと、今度は炎が立ち上がった。

(えーー。なにやってんの! 魔王!)


 クルルは炎の力を利用して、僕の頭上へと舞い上がった。


「ははは、どうじゃ。わらわの力は」


 ◇


「おう、そこのクレイジー。もういっぺん俺達に見せてくれ」

「ん? 構わんのじゃ」

「おい、みんな、今日は最高に面白いものが見れるぜ。気合をいれるぞ」


「「「「3! 2! 1!」」」」


「キリマンジャローー!!」

(掛け声がよくわからん)


 ◇


「魔法が使えるってすごいな」

「もう一度見ようぜ」


「「「アンコール! アンコール! アンコール!」」」


「愚民ども、よく観るのじゃ」

「いいねクレイジー。じゃあ、みんなヨロシク☆」



「「「「1! 2! 3! だ!」」」」

(カウントダウン違うよ)


 このあとクルルは二回ほど飛び「お主らもやるのじゃ」と男達を捕まえていた。


 ◆


 リバーソンでのバンジージャンプが無事に終わる。僕達は国境を越え、ルルミア王国に戻ってきた。


「ラルフ、ラルフ」

「どうしたの? クルル」

「天界に行けそうじゃ」

「はっ?」

「天界からお主の家にいけるぞ」

「えっ」

「みんな、集まるのじゃ」

「ちょ、ちょっとー」


 ◆


「ほら、簡単じゃろ」


 そこに広がっていたのは、白い砂浜と透き通る青い海。そしてリゾートホテルもあった。

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