第54話 皇太子と炎

 僕達はリルルと別れた。あの時はお互いに泣いてしまったけれど、今日は再会を期待して笑顔で別れることができた。次は帝都へと向かう。


「リーン、ようやくだな」

「ありがとうございます」

「しかし、何でまた、ヤンとやりやったの?」

「帝国の近衛兵にならないかとスカウトがきたんです」

「へー、そうなんだ」

「氷の魔女として冒険者活動して、メキメキと力が上がったの」

「そうか、リュークと一緒だと攻撃が強くなるしかないのか」

「それで、氷の鎧を作れるようになったから、近衛兵もできるかなって」

「ふーん」

「なってすぐにムネピコ達と出会って。実力がついたと過信して、ヤンとぶつかったの」

「……」

「結果は惨敗。ムネピコがラルフが悲しむと言ってくれて、命が助かったの」

「そうか」

「うん。そう」


「ふーん。わらわは勝てるぞ。ヤンとやらには」

(あなたに勝てるのは神族だけです)


 ◆


 そして、僕達は帝都に着いた。


「来たね。ディアは初めてだっけ?」

「一緒にスタロンと来たじゃない」

「あっ、そういえばそうか」


「ラルフさん、こっちです」

「あぁ、わかった」


 僕達はリーンの案内で、リューク邸に向かった。


 ◆


「ただいま!」

「リーン!」


 リーンがリュークに飛びつき、二人は抱擁した。


「あなた、ごめんなさい」

「いや、無事だったから良かったよ」

「うん」

「城で大量虐殺があって、リーンがいないから、ホントにどうしようかと」

「ごめん」

「エミルちゃんだっけ? 彼女が無事を知らせてくれたんだ。ラルフさん、リーンを助けてくれて本当にありがとうございます」


「仲間だからな。幸せになってもらわないと困る」

「幸せにします。あのとき、ラルフさんの助言があって、今の俺達がいるので」

「そうだな」

「今日は泊まっていってください。小さい家ですけど」

「そうだな、そうさせてもらう」


「わらわはこの街を見てくるぞよ」


 ◆


「リューク。リーンが抜けた後、冒険者活動していたの?」

「いいえ、リーンがいないので、教会の仕事を手伝っていました」


「あなた、お好み焼きソースどこだっけ?」

「正面の棚の上から二番目」

「あった。ありがとう」

(うーん。オコノミヤキって何だろう?)


 ちなみに、リーはイチゴかき氷を一生懸命スプーンですくっている。


ズドーーーーン、バーーン!


(この音、まさか)


 ◆


(あーあ、炎の三日間だ)


 帝都は大騒ぎになる。あの戦争の時と同じような炎が出現したからだ。


『どこの馬鹿だよ。エルフを囲っているのは』

『貴族だろ、そいつらに炎が行けば』

『ここはやられる、逃げるぞ』

『待てよ。俺の家族はどうなるんだよ』


 ◇


「はぁ。リーン、騒ぎの説明がしたいから僕を城に連れていってくれ」


 ◆


「面をあげてくれ」


 僕達は今、皇太子に謁見をしている。リーンが僕を紹介した。


「皇太子様、隣にいるラルフというものが、炎の件を説明してくれるそうです」


「ラルフ? そうかそなたが、勇者が言っていた男なのか」

「はい、お初にお目にかかります」

「それで、この騒ぎの説明をしてくれるそうだが」

「はい、この炎は先の戦争と同じものです。誰が使った魔法なのかも知っています」

「そうか」

「はい、その者に自由行動をさせてしまったがために」


バリン! ガシャーン!!


「ここにおったか、ラルフ」

(クルル、窓を壊して入ってくるな)


「曲者だ!!」

「皇太子、止めてください。こいつが犯人です」

(やべっ、テンパって犯人って言っちゃった)


「ん? ラルフ、どうしたのじゃ、深刻な顔をして」

(だーれーのーせいかな♡)


「無礼を働いて申し訳ございません。お許しを」

「か、構わん」


「ラルフ、なんで謝っているのじゃ」

「クルル、この国の一番偉い方だ」

「そうなのか」

「皇太子様、この炎はこの者の魔法でして、三日は消えません」

「わらわを手籠めにしようとした男らがいたから、その者を炎で囲ったぞ」

(すごいな、生かさず殺さず)


「皇太子さまは、ダークエルフのヤンをご存じですか?」

「知っている」


「ヤンは好戦的なのですが、クルルに軽くあしらわれます。具体的にどのくらい強いのかと言うと彼女は一人で一国を滅ぼすくらいの強さがあるのです」

「まるで魔王だな」

(まるでじゃなくて、魔王なんです)


「ラルフ、わらわは食事がしたい。そいつを食べていいか?」

(なんで、魔王モードなの?)


「クルル、ヘンダーソンに行ったとき、僕といれば、あのリゾートホテルに泊まれるぞ」

「ホントか!」

「あぁ、だからこれ以上騒ぎを起こさないでくれ」

「わかった。それじゃ、そこの窓でも直すかの」


 クルルは炎を器用に扱い、ガラスを溶かし窓を直していく。


「皇太子様、この騒ぎを収めるために、今一度、エルフの件を民にお伝えください。このクルルというものは、わたくしが責任を持って抑えますので」

(抑えられていないから、炎が出現したけどね。ゴメンナサイ)


「わかった。ラルフ。頼むぞ」

「はっ」


 ◆


「はふはふはふ、このお好み焼きというのは美味しいのう。おかわりじゃ」

(本当に自由に行動させなければよかった)

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