第53話 妹は思い出を語る

「懐かしいね」

「うん。ディアが抜けるって言ってたのが遠い昔の様だよ」


 僕達はソレトに入り、冒険者ギルドへと向かった。


 ◆


「あっ、ラルフにリーンじゃない?」

「お久しぶりです」

「しばらくぶり~ラルフ」

「これ、ギルドへのお土産です」

「ありがとう。こんなに大量のマカダミアナッツチョコレートどうしたの?」

「ヘンダーソンに行ったんで、買ってきました」

(買ったのはクルルだけど……)


 いつもと変わりないソレトの冒険者ギルド。酒場から聞こえるグラスのぶつかる音。喧噪。壁の木目に刻まれた傷。そして、タバコの匂い。

 懐かしくもあり、僕は安堵感に包まれていた。ふと目をやると、あの場所に一人の女性がいた。笑顔で。


「みんな、あそこのテーブルに行こう」


 ◆


「久しぶり。リルル」

「ラルフ、久しぶりね」


「リル姉!」

「おっ、アテネか」


 あの時と同じ様に彼女、そう、リルルがいたのだ。


「まさか、こんな所で会うとはね」

「ラルフ。こんな所じゃなく、ここなの」


 僕達はテーブルに座る。子供達はタバコの匂いが嫌なみたいだ。


「そういえば、リーンとどのくらい活動していたんだっけ?」

「うーん。覚えていないな。二ヵ月くらいかな」


「リル姉。なんか若くなってない?」

「天界に戻っていたから、時間軸が変わって、若く見えるの」


「リルルさん。あのこれ、どうします?」

「ディアさん。その腕輪と指輪は、あなたに渡したの。だからずっと持っていて」


「なんだぁ、アテネ。降りてくるなら、ヘンダーソンで――」


 リルルは今までに見たことのない鬼の形相でクルルを睨みつけた。


 僕達は出会いのことやこの町での活動。そして、ディアを助けに旅をしたこと。順番とか気にせずにあの頃の日々を思い出し、話し合っていた。



「おう、兄ちゃん。お前、随分といい女に囲まれているな」

「おれらにも、分けてくれよ」

「これでも、有名なんだぜ。この町のAランクパーティーなんだから」

「あれ、知らないの? よそ者だと思っていたが、そうなのか」

「じゃあさ、お近づきの印にパーっと呑もうや」

「「「へへへへへぇ」」」


 男達がリーンに近づく。リーンは魔法で男達の足を凍らせ、動けなくした。 そして、リルルとリーンによって、男達はあっという間に縄で縛られた。

(手際のよさは、あの頃と変わっていないなぁ。なんか嬉しい)


「リルル、ここに来たのも理由があるんでしょ?」

「ご想像通り」

(だよね)


「ん? なんじゃ。アテネ、何か用事があって来たのか?」

「お姉様」

「なんじゃ。マカダミアナッツチョコレート持っていくか?」

「お姉様!!」


バン!!


「どうしたんじゃ? テーブルを壊したいのか?」

「帰りましょ」

「ん? 何を言っているのじゃ?」

「お父様から連れて帰るよう言われてますの」

「あぁ、懐かしいな。魔王城でも、このメンバーじゃったな。わらわは、アテネと一緒に旅をしたかったんじゃよ。どうだ、これから一緒に旅をせぬか」

「いいえ。一緒に旅はしません。ここに降りてこれたのも、特別な理由があったからです」

「そうなのか、忙しいのか。大変じゃな」

(クルル、他人事の様に言っているけど。がっちりお前のことだからね)


「リルル、頼みがあるんだ」

「なんですか」

「帝都に行った後、僕とディアで王国に戻るのはキツイんだ」

「そうですね。確かに」

「申し訳ないのだけれど、クルルに護衛を頼みたいんだ。神様には悪いと思うけど、クルルが一番いいんだ」

「……」

「頼む」

「わかりました。王都までですよ。お父様に叱られるかもしれませんが」


「ん? アテネ。珍しいな、お前が叱られるなんて」

(誰のせいだよ)


 ◆


「みなさん、今日は楽しかったです」

「ありがとう。僕も楽しかったよ」

「リル姉、もう行っちゃうの?」


「はい、ここにいるのも時間が限られているので」

「リル姉。また来るよね?」

「リーンが良い子にしていたら考えます」

「えーーー」


「リルルさん、いや、女神様、これからも御加護を」

「わかっています。見守っていますから」

(ありがたいね。友達みたいに話せる時間もあるなんて)


「ラルフとディアの魔力交換、いつも楽しみに見ていますから」

(女神様、最後に物凄い事ぶっこんできますね)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る