第51話 十四階のスイートルーム
クルルのやらかしで? 僕達は今、ヘンダーソンにいる。
「ディア、二人とも抱えるのは大変だから、そのおんぶ紐をかして、リーちゃん背負う」
「ありがとう。じゃあ私、カイちゃんを抱っこするね」
「ラルフ、これからどうするのじゃ?」
「まずは宿の確保だな」
「ほぅ」
「知り合いがいるから、そこに行ってみよう」
◆
「お帰りなさいませ――あっ! ラルフさんじゃん!」
「久しぶり、ファン」
「しまった。また接客のこと言われる」
「僕は気にしないから大丈夫だよ。それで相談なんだけど、どこか泊まれる所、探しているんだ」
ファンは笑顔で、
「私に任せてください。しはいにーん!」
(たぶん支配人だよな。上司にその言葉遣いはどうなんだろ)
しばらくすると、端正な顔立ちをした、ナイスミドルが来た。
「ラルフ様ですね。お待ちしておりした。昨年ファンから聞いております」
「あっ! ファンが僕のこと言っていたんですね」
「はい、当ホテルの宿泊料金を十割引きに致しますので、御贔屓にしていただければ」
(いくらなんでも、ファンが言っていたからって)
「ラルフ様は元勇者パーティーに、そしてさらにルルミア王国の現勇者パーティーにいらっしゃるとお伺いしております。なので当ホテルを利用した感想などを言って貰えるとありがたいのですが……」
「ん? 感想ですか? 大丈夫ですよ」
「有難うございます。これで当ホテルは勇者パーティー御用達と、箔が付きます」
(なるほど。勇者関係だから、宣伝効果、抜群なのか)
「ラルフ様、少々お待ちくださいませ」
◇
「すごいな。ロビーも広いし」
「ほう、下界には、こんな所もあるのか」
支配人が宿泊状況を確認している間、僕はクルルとロビーを見て関心していると、ディアから宿泊日のことを心配された。
「ラルフ、ほんとうに大丈夫なのかな。十割引きって」
「うん。僕が広告塔になるみたいだから、お客さんたくさん来て、元とれるよ」
「お待たせしました。十四階のスイートルームを用意できましたの御案内いたします」
◆
「ここって、最上階ですか?」
「はい。お気に召しませんでしたでしょうか?」
「いやいやいや、本当にここでいいんですか? もっとリーズナブルな所でも」
「当ホテル、イチのスイートルームを使って頂いた方が、人気が上がりますので」
(なるほど。勇者が使う所をセレブも使ってみたいと思うのか)
◆
「うわー、すごい」
僕達が部屋に入ると窓の外には、果てしなく広がる青い海と、街並みが見渡せる光景に僕達は驚愕した。
「ラルフ、すごいね。これなら、リーちゃんとカイちゃんも海を楽しめるね」
「あぁ」
「ここの眺めは良いのう、わらわは感動した」
(クルル、お前、天界から見えるだろう)
「ラルフ、あーし、こんな所泊まれなかったよ」
(ペア宿泊券でもスイートルームはキツイよね)
「パーパ―」「……」
(リーも気に入ったみたいだ。カイは分からないだろうけど)
「あっ、クルルお願いがある」
「なんじゃ?」
「家からお金持ってきてないから、魔石を――」
「お主の家からギルドカード[デビット機能付き]を拝借してきたぞ、ほれ、これじゃ」
(これどうなの? 娘が同じことやったら僕泣くよ)
◆
ザブーン
「ディア、楽しいよ」
「ずるい、先に自分だけプールに入るだなんて」
「ごめん、ごめん。ちゃんと、リー達、面倒見るから」
「ほう、これがプールというものか、気持ちいいのう。極楽極楽」
(あのね、温泉に浸かっているみたいに言っているけど、極楽って天界だよね)
「あぁ、お気に入りの水着。家だよ」
(そうだろうね。リーン。あっ、リー、カイ、浮いているな)
◆
「夕陽、綺麗」
「そうだね」
黄昏どきには藤紫色の空と星。街がほんのり赤く染まる。僕とディアはそんな風景を眺めていた。
(十四階からの眺めは素晴らしいんだな)
◆
「美味しいね、ラルフ」
「そうだね」
「人間はこんなものを食べるのか」
「おいしーーん!」
このホテルの食事はとても美味しい。夕飯はみんなで楽しく食べることができた。
◆
翌朝
「おはよう」
「おはよう、ラルフ」
「おはようなのじゃ」
「「zzz…zzz……」」
「おっ、はー」
朝食はバイキング形式だ。朝食会場に行って、席を確保する。
「みんな、必要な分だけ取って食べるんだよ」
「わらわ、プリン全部もってくる」
(聞いてた? クルル、他のお客さんのことも考えて)
「リー、カイ、わらわが食べさせるぞよ。待つのじゃ」
(クルル、ありがとうね。それでも半分くらいまでにしてくれ)
◆
「いやーじゃぁぁ!! わらわはもっと此処にいるのじゃぁぁーー!」
「クルル、ソレトに行くんだろ」
「あと一泊、あと一泊でいいのじゃ!」
「……」
結局、クルルのワガママで、僕達は一週間、ホテルに滞在した。
(支配人は喜んでいたな。勇者が快適すぎて滞在を延ばしたと、堂々と言えるから)
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