第49話 別れ

「二人とも、やめて!」


 ムネピコが悲痛な表情で大きく声をはりあげる。エミルがアワアワしているのも視界に入っていた。

 そんな姿を見ていたら、後ろからサルに羽交い絞めにされた。


「お前、殺すぞ」

「わかっているが、お前らの戦う姿は見たくない」


 サルの行動に、リーンはお構いないようだ。


「悪いけど王を守るために、あなたを殺す」

「サル、離せ。お前、巻き込まれるぞ。最悪二人とも死ぬぞ」


「リーンさん! やめて!!」

「ムネピコ、あーしが諦めたら王が殺される。だから無理」


 サルは観念したのか、オレを離す。するとリーンが、


「ハイフローズンアーマー! いく――」


 呪文を唱えているうちにオレはリーンの首元にサーベルを振ったが、固い氷に阻まれ、首を刈りそこねた。まぁリーンは吹っ飛んで、気絶しているみたいだけど。


「おっかしいなぁ、首刈ったはずなんだけど。まぁいいや」


 オレは止めを刺しにリーンの所へ行く。


「ヤンさん、もうやめて」

「オレを殺そうとしていたんだぜ、正当防衛だ」

「ラルフさんが悲しむ」


 ムネピコにそう言われ、思わず舌打ちした。


「ちっ」

「お願い」


 オレはサーベルを収め、リーンに吐き捨てる。


「命拾いしたな、リーン。次はないぞ」


 ムネピコが「リーンさんをどうするの?」とサルに問いかけ、サルは「勇者パーティーに攻撃してきたんだから、捕虜だな。王国の牢屋にぶち込む」と言っているのが聞こえてくる。まあ、次の獲物は逃がさないけど。


「あっ、そうだ。お前らを殺せと命じた奴をやらなければな」

「だ、だ、誰だと思っている。わしは帝王だ――」


 間髪いれずにオレは帝王のおっさんの首を刎ねる。そして、端にいる奴に問いかけた。


「おい、そこの坊主。帝王がいるのに、なんでオレに刃を向けない?」

「ダークエルフの残忍さを知っていて、敵わないと思ったからです」

「へー、よくわかっているじゃん。お前、誰なんだ?」

「この国の皇太子です」

「皇太子? わかんねえーな。まぁいいや、次のトップに伝えてくれ」

「はい」

「この国のエルフを全員を返せと、でなければ実力行使する。先の戦争のようにな」

「わかりました。伝えます」


「これでいいか? ムネピコ」

「ヤンさん、ありがとうございます、エルフ好きじゃないのに」

「いいんじゃね。どうせ、誰かが説得するだろうし、かわんねぇよ」


 ◆


 怯えている護衛の奴らを無視し、オレはムカつきを抑え城を後にした。


「ヤン、もう無理か?」

「無理だな。お前邪魔しただろ、それにリーンを保護するんだろ。だから、お前たちとは別行動だ。じゃなきゃ、お前達を殺しちまうから」

「そうか……。わかった」


 サルが握手を求めて手を出すが、そうじゃないだろとサルを睨みつけた。


「じゃあな、サル、ムネピコ、それとエミル――あっ、そうだ。ラルフと嫁さんに伝えてくれ。感謝しているから、必ず会いに行くと」


「わかった」


「ヤンさん、うちついていきます!」

「好きにしな。それと殺されても文句はいうなよ」


 ◆


 風の噂では、オーラン帝国の皇太子が御触れ書きをだしたそうだ。エルフを全員献上しろと、でなければ先の戦争みたいなことが起こると。


 オレはサル達と別れからは、気ままな旅にでた。エルフの嬢ちゃんを連れてな。

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