第45話 居候
ルルミア王国に入国してからは、王都を目指して旅をした。魔獣や野盗が出てくるが、問題なく倒していく。
(うん。エンチャントしていないから、僕いらないね)
長かった、本当に長かった。およそ一年ぶりに王都に戻ってきた。
「じゃあ、僕、帰るから。明日、国王陛下に現状報告ね」
ムネピコ、サル、エミルを含めたエルフ六人は宿屋に泊まることになった。ヤンは僕と一緒に家に行く。
◆
「ただいま!! ディア!」
ディアは目を見開き、僕に飛びついた。
「おかえりなさーい♡」
「待っておったぞ」
(クルル、なんで此処にいるの?)
「ただいま。クルル、どうして此処にいるのよ?」
「うむ。此処ならば快適に過ごせると思ってな」
「そうか。また親父と喧嘩したの?」
「いや、神族全員、敵に回した」
(なにしてんの元魔王。どうやったらそうなるのよ)
「ラルフ、男の子の赤ちゃんが生まれたの」
「男の子か! なんて言ったらいいんだろ。嬉しいよ。ディア」
「それでね。私、この子の名前をカイにしようと思っているんだけど」
「それいいね。カイ、いい名前だ」
僕は息子を見て、口角が上がっているのがわかった。
「ディア、ありがとうね。僕がいなくて大変だったよね」
「ううん。クルルが掃除・洗濯・炊事を完璧にやってくれたから大丈夫だったよ」
(すごいな元魔王。なんでもできるんだね。神族を敵に回すけど)
「なぁ、オレどうすればいい?」
「そうだな――そこのソファでくつろいでくれ」
「そうか。でもなぁ、せっかくいるし、クルルと戦いたい」
(戦争で見てるよね? 炎の三日間)
「相手にならんな」
(ヤンも強いけど、勝てるの神族くらいだもんな)
「だよな」
(ヤン。潔いいいね)
◆
「いってらっしゃい。あなた」
「ディア、いってくるよ」
翌朝、ムネピコ達と合流してから、城へと向かう。これから国王陛下に会って、この旅の報告をするつもりだ。城の中に入ると、王国騎士団の方に、謁見の間ではなく、ネル王女の事件のときに使った部屋に案内された。
コンコンコン
「入りたまえ」
「失礼します」
「ふむ、ラルフ、ムネピコ、サル、ご苦労じゃった」
「はい、無事に戻って参りました」
「ところで氷の魔女が見当たらんが」
「はい。オーラン帝国の故郷に戻り、帝都で結婚しました。彼女とも話しましたが、パーティーから抜けることになりました」
「そうか」
「はい。代わりと言ってはなんですが、エルフと出会い、彼女がパーティーに入りました」
「それが、そちらのエルフなのだな」
「はい。挨拶して」
「エミルです。初めまして」
「それでだ。お主らに頼みたいことがある」
「はい。どのようなことを」
「エルフの長、いや王と言っていいだろう。この国と、ルルミアに隣接している国にいる人間に攫われたエルフを返しなさいと言われてな」
「そうですか」
「ルルミアは王命で集めることができるのだが、オーラン帝国とザビンツ帝国は探さねばならない」
「そうでしたか。途中、クルイドに寄ったときにエルフの奴隷は保護しました。今宿屋にいます」
「そうか」
「オーラン帝国ではクルイドにエルフの奴隷が集まっていたので、ザビンツ帝国だけですね」
「おい、ラルフ、娼館がまだあるぞ」
「あっ、そうだ。サル、ありがとう。陛下、エルフに関する情報があれば教えてください」
「うむ。それがわかっていれば、エルフの王に話しているぞ」
「そうですか。そうするとミタハン王国を含めた三国の娼館とザビンツ帝国の奴隷をさがせばいいのですね」
「ミタハン王国の法でエルフは娼館にいないはずじゃ。奴隷もな」
「となると」
「そう、オーラン帝国とザビンツ帝国のエルフを救えばいい」
(陛下、簡単に言いますけど、百メートルを逆立ちで歩くようなことですよ)
「それと、もう一つあってな。こちらの方が問題なのじゃが」
「はい」
「どうやら、魔王が天界から戻り、復活したそうじゃ」
「そうなんですね」
「それが、占星術師によるとルルミア国内にいるそうじゃ」
(はい、います。僕の家にいます)
「魔王はおそらく、魔族領に戻るはずだと思うのじゃが、ルルミアで暴れられるとマズイのじゃよ」
(はい。クルルに言っておきます)
「ラルフ。魔王のこともあるが。エルフについて、なにか策はないか?」
「そうですね。ザビンツ帝国のポートオフィスに行って、そこからローラー作戦ですかね」
「北から南へか」
「はい。その後、オーラン帝国ですかね」
「わかった。そのようにしてくれ。ムネピコ達もそれで頼むぞよ」
◆
「なんなんだ。あの野郎。オレに命令するのか」
「ヤン。そうじゃないよ。命令したのは人間に向かってだけだよ」
「ふーん。そうか。で、お前、まさかとは思うが」
「ヤン、頼む」
「はぁ、そんなことだと思ったよ。正直イヤなんだけど」
「エルフを助けることだよね」
「わかってるじゃん」
「そこをなんとか。いっぱい戦えるぞ」
「はぁ、ちょっと考えさせてくれ」
「そういうことで、みんな、ヤンの返答を待ってからザビンツ帝国へ行こう」
「やったー。ザビンツだ。おいら、わくわくする」
◆
「なあ、ラルフ。オレ、行くことにした。ここにいても腕がなまるだけだ。旅に出た方がいいだろう」
ヤンがムネピコ達の旅に同行することになって僕はひとまず安心をした。
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