第44話 成人の儀式

 クルイドを出発してから数日後、僕が宿屋で本を読んでいるとエミルがやってきた。


「ラルフさん!!」

「エミルどうした?」

「うち、風の精霊さんと契約出来ました!」

「すごいじゃん。どうやって?」

「エルフのお姉ちゃん達にやり方を教わったんです!!」

「へぇー、それなら、風の精霊以外にも契約できそうだけど、どうなの?」

「相性があるんです。もともとシルフ達とは相性が良くて、上手くいったんです」

「あっ、そうか。ディアの妊娠も教えてくれたっけ、確かシルフだよね」

「そうですね。あの時は会話できるだけで、今回は精霊の力を使っていろいろできるんです」

「すごいな」

「これで、ヤンさんと一緒に戦えます」


 僕達は辺境の町リバーソンへ向かう。道中はムネピコがサルと共に魔獣を潰していく。逃した魔獣を、ヤンがエルフ達を守りながら戦う。エミルはその補助だ。

 そして、ようやく辺境の町リバーソンに辿り着いた。宿屋で一泊してから国境へと向かう。渓谷の向こう側がルルミア王国だ。僕達はエルフと共に、しばらく歩くと川の流れる音が聞こえてきて、国境を繋ぐ橋が見えてきた。


「ムネピコ、あの橋を越えるとルルミア王国だよ」

「遂に戻ってきたんだ!! 長かったなぁ」


 僕達が橋まで行くと、何やら人がいる。

(なんだろ。えっ! 人が落ちた!!)


「これ、なんだかわかる人いる?」


 みんなに聞くと、サルがドヤ顔で僕に言ってきた。


「知らんのか? バンジージャンプだよ。バンジージャンプ」

「バンジージャンプ? サル、なにそれ?」

「古くから伝わる成人の儀式だよ。度胸があるか試すんだ。今はアトラクション化しているけどな」

「へぇー」


「おいら、やりたい!!」

(ムネピコ、何かあったらマズイだろ。勇者なのに)


 ムネピコは目をキラキラさせている。


「なぁ、ラルフ。面白そうだから、あの縄、切っていい?」

(ヤン、やめてくれ)


 ◆


 ムネピコは我先にとバンジージャンプの地点へ走る。ムネピコが近づいてきているのを関係者らしき男が気づいて、彼女に声をかけていた。


「おう、そこのクレイジー。やってみるか?」

「うん。やる!!」

「じゃあ、順番があるから待っていてくれ」

「わかった!!」


 ◆


 僕達はムネピコが飛ぶのを待つ。ムネピコは今か今かとワクワクしているようだった。


「今日は嬢ちゃんで最後だ。運がいいね」


(これフラグだよね)


 関係者の男にムネピコは足を縛られ、所定の場所へ。


「みんな、これで最後だ。馬鹿みたいにやってくれ。いくぞ!!」


「「「「3! 2! 1!」」」」


 ムネピコの体が傾いていき、そのまま落ちていく。


「わほーい!」


ブチッ


(おーーーい、関係者!)


「やっほー」


 縄が切れたのに気がついていないのか、ムネピコは呑気に叫んでいる。僕がこれはマズいだろと思って見ていたら、ムネピコの落ちていく速度が遅くなるのがわかった。


(なんだ?)


ザブーン


「わーい。たのしいぃー!」


 ◆


 何が起こったのか、わからずにいるとエミルと同行しているエルフ達がやってきた。


「お姉さん方に協力してもらい、前もってシルフ達にムネピコさんが怪我をしないよう頼んでおきました」

(風で遅くしたのか。エミルありがとね。そしてエルフのみんな)


 川からムネピコが戻ってきて「みんなも面白いからやろうよ」と言っていたが、誰も同意せず、みんな苦笑していた。

 それから僕は橋を渡り、オーラン帝国に別れを告げる。


「バイバイ、また来るよ」


 リルルのことリーンのことを思い出しながら、ルルミア王国に入国した。 

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