第38話 民宿と海

 旅は順調にいき、無事にヘンダーソンにたどり着いた。


「水着を買わないとな」

「ラルフさん、水着ってなんですか?」

「エミルは知らないか、海に入るときに着る服だよ」

「へぇー、そうなんですね」

(エルフは森に住んでいるから知らないのか)


 僕達はお店が立ち並ぶエリアに来て水着を探した。


「サル、ここかな?」

「ここだろ、たぶん」

「すみません。水着を探しているのですが――」


 店に入り、僕達は各々水着を見ていく。


「ヤンはどれ買うの?」

「買わないぞ。潮風はサーベルに悪そうだから、海には入んねぇ」

「そうなのか。海に入らないなんて、なんかもったいないなぁ」


 そして、僕はサーフパンツ。サルはビキニタイプの水着を選んだ。


「女子の買い物は時間かかるぞ」

「そうなんだ、サル」


 ◇


「これいいじゃん」

「リン姉、これもカワイイよ!」


「リーンさん似合ってますかね」

「エミルちゃん、かわいい!」


「おいら、これにする」

「へぇー、ムネピコは胸の形、気にするんだぁ」

「??」


 ◇


「長いな」

(サルの言う通りだな。覚えておこう)


「すみませーん」


 振り返るとそこに女の子がいた。

 

「今日泊まる所、決まっていますか?」

「まだ決まっていないけど」

「うち、民宿をやっているのですが、今夜、どうですか?」

「民宿って?」

「宿屋みたいなものです」

(そりゃあいい)


「じゃあお願いしようかな」

「よかったぁ。みんなホテルで、声かけたの九十九組目なんですよ」

(頑張ったな、良い事あるよ) 


 彼女の名前はファン。民宿を営んでいるところの娘らしい。


「ラルフどう?」


 女性陣が試着している水着を見せに来た。


 リーンはオフショルダーの水着。

(魔女のイメージと合うな)


 ムネピコはホルターネック。

(これなら水着が流されるイベント発生しなくていいな)


 エミルはタンキニ。

(うん。イメージに合う)


「じゃあ、これ買ってくるね」


 買い物を楽しんでから、僕達はファンに連れられ、民宿へと行った。


「じゃーーん。ここでーす!」


 そこには気合の入ったボロボロの建物があった。


「あら、いらっしゃい」

「女将、六人なんだけど大丈夫ですか?」

「大丈夫よ。一年ぶりのお客さんだから」

(違う意味で大丈夫じゃないですよね)


「じゃあ、上がらせてもらいます」

「あっ、そうそう。靴は脱いでね」


 目の前には階段があり、左の部屋を除くと畳が敷いてあった。

(ここにも畳があるんだぁ)


「ここ、今年で終わりなんです」

(だな)


「そうなの?」

「周りも潰され、新しいホテルができるんです」

「へぇー」

「だからお客さんで、最後かもしれないんです」

(そうだろ。一年間お客が来ていないんだから)


 民宿の女将に海に行ってきますと言うと、すぐ近くに海の家があり、そこで着替えるといいよとアドバイスをもらえた。


「やったー! 海だぁー!」


 ムネピコが先陣を切って、海へと入っていく。サルはビキニタイプの水着を着用しているが――、


(あれマズイよな。毛が見えているし)


「サル! やっぱりその恰好まずいと思う」

「おっ、秘策があるから大丈夫だぞ」


 サルは海へと入り、しばらくすると戻って来た。


「じゃーん、これでいいだろ」

(なあ、海藻で股間を隠すなんて、どうやったらそんなが発想ができるのよ?)


 僕は呆れてしまった。目線を変えると女性陣は海の中で、海水をかけあっている。


「えい!」

「リン姉。不意打ちはダメです。目に入って痛い」


「えーーい」

「キャハハ。やったなぁ。エミル。ほれ」


「なに? 足が」

「ぷはぁ。驚いたでしょ」

「ピコちゃん潜ってたの?」

「どうだぁ。リン姉、面白いよ」


「助けてぇーーあたい泳げなーい!」

「エミル待ってて今行くよ~」


(楽しそうだな――ん?)


「そこのお嬢ちゃん。わいと遊ばない?」

「いいです。間に合っています」

「そんなこと言わずにさぁ」

(サル。海藻でナンパは勇者だよ)


 海を一通り楽しみ、僕達はビーチバレー、ビーチフラッグをして、次はスイカ割。


「エミルちゃーん、右右」

「そこから360度回転したところにあるぞ」

(360度なら回転しなくていいよね)


バン


「「「「おおー」」」」

「ん? ヤッタぁ! 割ることができた!」


 遊び終えたので、海の家に行き、シャワーで体に付いた砂と海水を流す。


「じゃあみんな、戻ろうか」


 民宿に戻るとヤンが外で待ち構えていた。


「ただいまぁ。ヤン暇だったでしょ?」

「ん? 大丈夫だぞ。家直すの手伝ってたから」

(すごいよ。ボランティア精神が、来年潰れるというのに)


 家の中に入り、畳の間でくつろいでいると、サルと女将の会話が聞こえてきた。


「女将。娼館ってどこだ?」

「あぁ、それなら、そこを曲がって、真っ直ぐ進み、曲がって進んで曲がれば建物が見えるよ」

「おう、ありがとな」

(サル、今の情報で行けるのか?)


 日が沈む頃、僕達は一階に集まり食事をする。


「「「「いただきまーす」」」」


 夕飯は女将の特製料理だ。


「おいしい」

「これ、ホテルでもイケるんじゃん?」

「おかわり!」

(ムネピコ、おかわり早いよ)


 深夜、僕は目覚めてしまったので、外へ出てみる。満天の星空に生温い潮風。波の音が僕の心を癒してくれた。

(やはり知らない世界を体験することは良いな)


 ◆


 翌朝


「お世話になりました」

「そりゃどうも。また来年も来てください」

(女将って天然なんだね)


「あの、ありがとうございました」

「ん? 大丈夫だよファン」

「これ、私の就職先です。良かったら来年ここのホテルに来てください。十割引きしますから」

(それね、それをやるとホテルが潰れるよ)


 僕達はファンと女将に手を振りながら、ヘンダーソンをあとにしてパッソコ村へと向かった。

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