第36話 ハコクサ観光

 サルの勧めもあり、僕達はハコクサの中心部へ行くことにした。宿屋に荷物をおき、出かけようとするとリーンに声をかけられた。


「ラルフ、頼みがあるの。オーラン帝国に行ったらパッソコ村に寄ることはできない?」

「パッソコ村?」

「うん。あーしの生まれ故郷。両親を埋葬したいんだ」

「そうか。わかった。ルート考えるよ」


 ◆


 僕達はハコクサ観光に出かけた。


「サル。すごいな、これ」

「天守閣っていう、まぁ城みたいなもんだ」

「ふーん」

「他にも天守閣は点在しているぞ、寄る事がなかったけどな」

「そうかぁ、他のも見てみたいな」

「そうか。まぁ、この天守閣は王国でも有名で十二本の指に入るからな。残りの天守閣見に行ってもいいかもな」

(あのー、三本の指とか五本の指に入るとかなら分かるんですけど、両手で足りませんよね)


 僕達は天守閣の中に入り、急な階段を昇っていく。展望エリアに着き、窓の外を見てみると、素敵な景色が広がっていた。


「うぁー、凄い。街並みも川沿いの桜の連なりも、とても綺麗だ」

「ラルフ、天守閣からの眺めも素敵だろ。ムネピコもそう思うだろ」


「うん! でもおいらチョコバナナとかりんご飴とかの方がいいな。せっかく来たんだし」

(花より団子)


 一通り天守閣を楽しみ、街へと繰り出す。


「なんか、エミルちゃん、ずっとヤンの後ろにいるね」

「あっ! カルガモですよ。リン姉、カルガモ」

「言われみてばそうね」

「おいらもついていこうかな」


 ◆


「なんだこれ。ミタラシダンゴ?」

「美味しそうですね。ヤンさん」

「なんで、お前、隣にいるの?」

「……奢ってもらおうかと」

「エミル。魔石で換金したお金、均等割しているよな。自分で買え」


 ちょうど僕はサルに名物と聞いていたナットウのお店の前に来ているところに、ミタラシダンゴを買うこともなくヤンがこちらにやってきた。


「サル。ナットウってこれ?」

「おう。ヤンも食べてみな」


「へぇー、ラルフも一緒に食べようぜ」


 醤油というものをかけて、ネギと混ぜ合わせる。僕とヤンは口の中に頬張った。


「おいしいな」

「オレ、ダメ。よく食えるな」


 僕がナットウを食している頃、女性陣はどうかというと。


「純米吟醸酒たくさんある! 試飲してみる? ピコちゃん」

「うん! おいら飲んでみる!」

「はい、ピコちゃん。一合ね。ゆっくりでいいからね」

「あのー。リーンさん。試飲ですよね?」


 宿屋に戻ってきて、みんなくつろいでいる頃。僕はこれからの旅のルートを考えるために一階の広いロビーにいた。すると、サルがやってきた。娼館に遊びにいこうと誘われたが、断りをいれた。


「ラルフ、行ってくるから、後はよろしく」

「はいはい、いってらっしゃい」

「せっかく来たんだから、お前も楽しめばいいのに」

「僕には妻がいる。それにルートの確認と日程を考えないといけないからな」

「真面目すぎ」

「考えなくてもいいのか? サルが代わりにやってくれればいいけど」

「じゃ、行ってくるわ」


 翌朝、みんなを集めてミーティングをする。


「ここから教国を跨いで、オーラン帝国のリゾート地、ヘンダーソンに行こうと考えている」


「やったー。リゾートだ! おいら初めてだよ!」


「ラルフ、リゾートって海に行くの?」

「そう。そこからリーンの故郷パッソコ村に行って、次に僕とリーンがお世話になったソレトのギルドに行く」

「懐かしいなぁ。ラルフとパーティーを組んだところね」

「うん。オーラン帝国の帝都までは、このルートかな。どう? みんな」


「オレはどこでもいいぜ」

「わいは娼館があればいいぞ」

「うちも大丈夫です」


 みんな準備ができたので宿屋を出ようとすると、サルからこう言われた。


「ラルフ、もうちょっといようぜ」

「どうせ、地元のお気に入りの娼館にしばらく行きたいだけだろ」

「へへへ、バレてたか」


「馬鹿ね。脳みそもサルなのね」

「リーン、わいは名前だけだ」


「おいらは出発した方が良いと思う。力をつけて魔王と戦わないといけないから」


「じゃあみんな、教国に行こうか」


 王都を立ってからの僕達の旅は順調。しかし、パーティーに一つ問題点があることに気がついてしまった。


「サル、そういえば、いつもヒールの重ねがけしているよね。ハイヒールを使わないの?」

「はっ? ハイヒール? わい、ヒールとキュアしか使えんぞ」

(あのね。リーンはアクアハイヒールとアクアキュア使えるよ。サル、神官だよね?)


 僕はサルのことは考えないようにして、旅を続ける。そして、ビスビオ王国と教国の国境に着いた。

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