たそがれ漫遊記

第33話 side ヤン

 オレは勇者っていう奴と旅をすることになった。が、フォロー役だってさ。つまんねぇ。戦いたくても戦えねぇなんて、腕がなまりそうだ。

 宿屋に着き、いつも通りラルフに荷物を預け、周辺を散策。宿に戻ると、サルから声をかけられる。


「ヤン。わい、楽しい所知ってるから、一緒に行こうぜ」


「ん?」

「お前、金持ってるだろ。使い方教えてやっから」


「ふーん。まぁ、いいか。よくわからんけど」

「じゃあ、行くぞ」


 ◆


 オレはサルに連れられて、繁華街を歩いている。


「そういえばラルフは誘わないのか?」

「断られちまった。妻がいるとかどうとかで」


「なんだそれ」

「おっ、ここだここだ」


 見ると薄汚れた二階建ての店があり、中に入ると外観とは違って赤い絨毯が敷いてある綺麗な所だった。


 ◇


「お客様、どうぞこちらへ」


「ヤン、行くぞ」


 オレはサルの後をついて行く、すると、おばさんから若い女性がいるスペースにきた。


「お客様、こちらの女性から気にいった人をお選びください」


(はっ? なんだそれ?)


「なぁ、サル、オレ意味わかんねぇんだけど」

「好きな奴を抱けるんだよ。金にもよるけど」


(あぁ、噂に聞く娼館って所なんだな)


 サルの表情を見る。いやらしい目で女たちを見ているのが分かった。

 

(ん?)


 オレは端の方にガタガタ震えているエルフがいることに気づいた。


「あのエルフは?」

「めちゃめちゃ珍しいけど、エルフは高いからやめとけ。その分、女をたくさん抱ける方がいいだろ」


「そんなもんなのか」

(せっかくだから、あいつイジメてやるか)


「お客様、お決まりになられましたか?」


「わい、その子にする」


「じゃあ、オレはそっちのエルフにする」

「はぁ? やめとけって言っただろ」


「もう、来ないよ。娼館には」

「そうなのか、まぁいいや、わいの金じゃ無いし」


 そして、オレはエルフの子を引き連れて、指定の部屋へと向かう。


「なんか、アン、アン、言ってるな」

「……はい」


 それからオレはエルフの子と共に部屋に入る。


「や、ヤンさんですよね?」

「そうだが、お前なんでオレの名前知ってるんだ?」

「前に助けてもらいました」

「オレお前のこと、助けったっけ?」

「はい、奴隷商に連れていかれているところを」

「ふーん」

「首を切られている人がたくさんいて、怖かったです」

「あっ、あんときのエルフか?」

「はい」

「ちなみに名前は?」

「エミルです」


 オレが椅子に腰かけると、エミルはベッドへ行った。

(どうやって、イジメてやるかな)


「お前、何でこんな所にいるんだ?」

「……はい。無理矢理」

「ん?」

「声をかけてきた人に捕まり、攫われて、ら、乱暴もされて、売られたんです」

「どういうこと?」

「そ、その人の家に三日いました。それでお前はもう飽きたからと、ここに売られたんです」

(なんだそれ、クズじゃん)


「本当はもう、男の人に抱かれて、あんな痛い思いをしたくないんです」

「するってぇと、オレ、初めての客なのか?」

「……はい」

(だから、震えていたのか)


「先に言っとくな。オレはお前を抱く気はない」

「えっ」

「殺すかもしれんが」

「!!」

「は、は、は、冗談だよ」

「……」

「それで、オレ、どのくらいこの部屋にいればいいんだ?」

「たぶん、二時間くらいです」


 それからはエミルと話し合った。聞けば聞くほど、エミルを売った男がムカつく。


「エミル、吹っ飛ばしてやるから、その男の所まで連れていけ」

「えっ、でも……」

「なんだ?」

「仕事なんで、途中で抜けられないし、ヤンさんが帰ったら、もう会えないと思います」

「そうなのか?」

「はい、身受けしてくれるのなら別ですが」

「なんだ身受けって?」

「高いお金を払って、私を持って帰り、好きなだけ弄ぶことです。でもヤンさんは私のこと抱きませんよね」

「オレが金払うんだろ。お前それ、都合よくねぇか?」

「……」

(どうすっかなぁ)


 ◆


「オレ、この子もらうわ」

「はい、お客様、身受けってことで宜しいでしょうか?」

「あぁ、そうだ」

「はい、このエルフは白金貨五枚になります」


 するとエミルは驚いた顔をしていた。


「どうした?」

「は、白金貨五枚って――」

「??」

「確か、銀貨五万枚ですよ!」

「それがどうした」

「どうしたって、払えるわけがないじゃないですか!」

「あぁ、そんなことね」


 オレは白金貨五枚を取り出し、店員に渡す。


「領収書は必要ですか?」

「いらね」

「わかりました。この娘の支度がありますので、ロビーでくつろいで頂けると……」

「あぁ、いいぜ」


 ロビーでくつろいでいると、スッキリした顔のサルが来た。


「おっ、ヤン、どうだった?」

「まぁ、まあまあだな」

「エルフを抱けたのに、まあまあってなんだよ」

「いいんじゃない、オレの感想なんか」

「そうか。じゃあ、ヤン、帰るか」

「いや、オレ、そこの仮面とかムチとかを見ていくから先に帰ってくれ」

「ハハハ、お前Sなんだな。じゃ、わい先に戻るわ」


 サルが帰っていく姿を見、オレはエミルを待った。


「お待たせしましたぁ。ヤンさんありがとうございます」

「おう、それよりも、男の所に案内してくれ」


 両手を後頭部に当てながらエミルのあとをついていく。三十分ほど歩いて、目的の場所に着いた。

 

「ここです」

「ここね。じゃあ、暴れてくっから」


 ◆


「なんだ、お前」


シュ


 オレは来たヤツの首を刎ねていく。


「あ、兄貴!」


シュ



『あっ、あん、あっ、あっ。そこ、気持ちいい』


(ここか)


 ドアを蹴破り中に入る。


「な、な、なんなっ――」


シュ


 男の首が転がる。


 女は何が起こったか分からず、そして目を見開いていた。


「ひーー」

「ふっ、楽勝」

「あっ、あっ、あっ……」

「そうだ、こいつもやらなきゃな」


 裸の女は失禁していた。


「ど、どうか命だけは取らないでください」

「お前、オレの顔みたよな」

「っ!」

「っていうか、騙されているぞ、お前。娼館に売られるところだったぞ」

「ど、どうか命だけは……」

「取らねぇよ。早く着替えて逃げることだな――オレの気が変わらないうちに」

「は、はいっ」


 女は急いで服を着きて、バタバタと逃げていった。


 ◆


 一仕事を終え、外で待つエミルのもとへ。


「首、見ていくか?」

「だ、大丈夫です」

「そうか、まぁ楽しめたぜエミル。じゃあな」

「ま、待ってください」

「どうした?」

「うち、行くところがないんです」

「はーぁ?」


 オレは仕方なくエミルをつれて宿屋へと行く。それから、一連の出来事をラルフに説明した。


「そういうことがあったのか」

「あぁ」

「珍しいな、お前がエルフを保護するなんて」

「しょうがねぇじゃないか」

「ははは、いいんじゃない。白金貨五枚だろ。好きにすればいいと思うよ」

「そうだな」

「僕は一緒に旅をして、エルフの森に寄ったらいいって、ま、ヤン次第だけど」

「そうか、オレ、ムカついてエルフ殺しちまうかも。寄る予定あんの?」

「いや、まったく無い」


 そのあとエミルを連れてリーン達のいる部屋にいき、その扉をノックした。


コンコンコン


「はーい。今開けまーす」


ガチャ


「リーン、頼みがある」

「なに?」

「こいつを預かってくれ」

「どうしたの、その子」

「娼館に売られていたのを助けたんだ」

「この子、なんて名前なの?」

「エミルだ」

「そうなんだ。あーしはリーン、エミルちゃんよろしくね」


「あれー? カワイイ♡お姉ちゃんのところに来て、おいら抱きしめてあげるから」

「えーっと。お名前は?」

「おいらムネピコ、勇者だよ」

「勇者!」

「そう。エミルちゃん、今日はお姉ちゃんと一緒に寝ようね♡」


 ◆


「ヤン、お疲れ」

「精神的に疲れたよ」

「ははは、そうだね。明日みんなに聞こう。一緒に旅をするのかどうか」


 まさか、こんなことになるとは。オレはサルについて行ったのを後悔した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る