第30話 なあラルフ、お前どうすんだよ。

 僕達の初陣は圧倒的な力で敵を殲滅して終わった。

 重症者は六十三人、死者は十九人出た。そしてエリオットはなんとか一命を取り留めた。


「ラルフ、お前の救護班での行動は規律を乱した。戦争で許されることではない」

「アービー本部長、言わせてもらいますが、僕達は救援要請に応えて来ました。味方を救うために取った行動を咎められるのは納得いきません」

「こちらは多くの命を救うのにやっているのだ」


 僕は口を噤んだ。


「もういいぜ、ラルフ、やっちまおうぜ。ムカつくから」

「ヤン……」


「ラルフさん達、落ち着いてください。ここは戦場です。仲間割れしている場合じゃ」

「オリバー、お前の親父があの状態でもいいのか。死ぬのを見殺していいのか」

「……」


「ほほほ、愚かじゃのう。お主ら宿屋に行って頭を冷やすのじゃ」


 僕はクルルの言葉を聞いて、


「アービー本部長、出過ぎたまねをして、すみません。彼を連れて戻ります」

「ああ、俺の立場もわかってもらえると嬉しいのだがな」


 それから僕達は戦場に三日間残り、そして王国へと向かった。


 ◆


「みんな、ニゲール邸に行くぞ」

「いいぜ、回り道した方が面白いから」

「俺もいいと思います。一緒に行きます」

「わらわも行くぞよ」


 ◆


 エリオットを連れて、ニゲール伯爵邸に着くと、庭を掃除しているマリーが見えた。


「えっ、エリオット……」

「マリー、大丈夫。最悪の事態は乗り越えたから、今は意識が無いだけだ」

「あ、あ、ああ。よかった……」


 マリーはエリオットの胸の上で泣いていた。


「マリー、すまないが、僕達は王都に帰る。エリオットを任せる」

「あ、ありがとうございました。ラルフさん」


 ◆


「おかえりー!」


 王都に戻り、僕はディアに抱き着かれる。


「ディア、ただいま」

「早く帰って来れたのね」

「そう、ヤン達に助けられた」

「ところで、あの方は?」

「クルルって名乗っている。女神様の姉の元魔王だ」

「えーーーーっ!!」


「聖女よ。久しぶりじゃのう」


「ディア、明日陛下に謁見する。いくか?」

「ううん。行かない、待ってる」


「わらわは行くぞよ」

「クルル、やめてくれ。元々メンバーじゃないし、話がややこしくなる」

「そうか、人間の愚王も見てみたかったのじゃが、残念じゃ」


 ◆


「面を上げい」


 僕達四人は城の中に入り、そして今、謁見の間にて国王陛下と向き合っている。


「ラルフ、そして特命部隊の皆、お疲れじゃった。礼を言おう」

「はっ、ありがたき。お言葉」

(ヤン、つまんなそうな顔をするな)


「それでだ、教国は聖女の身柄を寄越さない場合。皇女二人の身柄を確保し人質にするそうだ」

「……」

「実質、処刑だな」

「そうですか……」

「それでだ、教国にだな」

「??」

「特命部隊を使って脅そうと思っててな、皇女2人を寄越せと」

「皇女二人が使えるのですね」

「ああ、魔法が使えるらしい」

「そうなんですね」

「教国には、皇女を処刑寸前まで預かってもらい。助け舟を出して。皇女に忠誠心を持ってもらおうとな。それで、お主らに頼みがある」

「僕達が脅しの材料に、実質なれと」

「そうだ。いつでも動けるように準備しとけということじゃな」

「陛下、僕は勇者パーティーの頃から王命で動いているので構いませんが、出身地がオーラン帝国のリーンとダークエルフのヤンは従う義務は無いと思います。特にダークエルフのヤンに命令すれば、ルルミアは大変なことになります」


「いいぜ、オレ、好きな奴、殺せるんだろ。何でも来いや」


「そうか、皇女を諦めて。教国には領地交渉だな」

「そうですか。ちなみに皇女はご結婚なされているのですか? 」

「いや、していない。八歳と十二歳だからな」

(僕は皆に目配せをする)


「あーし、任せる」

「ラルフさんの判断に俺は従います」


「わかりました。国王陛下。皇女が来るまで、特命部隊の任務続行を承ります」

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