第29話 半端ねぇよ
僕は作戦本部に行き、状況を確認する。
「初めまして、ルルミア王国特命部隊のラルフと申します」
「アービーだ。前線の作戦本部長をしている」
「戦況はどんな感じですか」
「じりじりと追いやられている。このままだと市街戦になるかもしれない」
「わかりました」
「悪いが君達には最前線に行ってもらう。それでいいか?」
「大丈夫です。問題ありません。ただ」
「ただ?」
「特命部隊のダークエルフには近づかないようにしてください。見境なく皆殺しにするので」
「わかった。旅で疲れているだろう。宿屋をとってあるから、そこで休みなさい」
「はい。ありがとうございます」
◆
(四人部屋か……途中
「どうする?」
「わらわはベッドを使うぞよ」
(うーん。遠慮がないな元魔王)
「いいぜ、オレ、先に前線に行って徹夜で戦っても」
(ヤン、敵味方わからないだろ)
「ヤン、明日の早朝、作戦本部に行って、持ち場を確認してからだ」
「はぁ、わかったよ。オレ、ベッドじゃなく椅子でいいぞ」
「そうなの?」
「夜襲に速攻で対応できる」
(ぜーーたい、敵にしたくなーーい)
「わかった。ヤン、オリバー、ポーション類を補充しにいこう」
◆
「エクストラポーションなんですね」
「あぁ、リーンがアクアヒール使えるから、重症のとき用だ」
「ラルフ、オレ下見行ってくるわ」
「あっ、俺も行きたいです」
「じゃあ、先に宿屋に戻っているから」
◆
ガチャ
「ただいまぁ」
「おう、待っておったぞ」
(魔王、なんで裸なんですか? 乳首がないのは、なんとなくわかりますが)
「クルル、部屋でも服を着てください」
「人間のはウザイのじゃ」
「オリバーとヤンもいますから」
「いいではないか。減るもんじゃあるまいし」
(うーん。どこかで似たようなことを聞いたことがある)
「人間は着ているんです。郷に入っては郷に従ってください」
「堅苦しいヤツじゃのう」
「お願いします」
ガチャ
「あっ、ラルフさん、戻ってたんですね」
「おう、ただいま。リーンは何処に行ってたの?」
「お花摘みに行っていたんです」
「悪い、失礼した」
◆
ヤン達が戻ってき、五人揃ったのでミーティングをする。
「リーンはオリバーについてね。クルルは僕と一緒ね」
「わかったぞよ。わらわも全力だしていいか?」
「どのくらいやるつもり?」
「あたり一面を火の海にする」
(さすがだな。元魔王)
「敵軍に恐怖を与えれれば、そこまでやらなくてもいい」
「どうするのじゃ」
「うーん。そうだな。前線と本部隊を切り離してくれないか。効果があると思う」
「わかったぞよ。炎でぶっとい線を引けばいいのじゃな」
「あぁ」
「じゃあ、オレは最前線で暴れるぜ。挟み撃ちになっているから、撤退できない。面白そうじゃねえか」
「あーし達はヤンと被らない場所で戦えばいいのね?」
「そうだ。お願いする」
◆
翌朝
「アービー本部長」
「どうした? ラルフ」
「前線と本部隊を切り離してはどうでしょうか。クルルができるので」
「大丈夫なのか? そんなこと本当にできるのか?」
「はい、できます。ルルミアの国王に誓って」
(元魔王ができるって、大丈夫)
「わかった。作戦を変更する」
「お願いします」
「あとは小部隊に、そのダークエルフに近づくなって伝えればいいのだな」
「はい」
「じゃあ、頼むぞ、ダークエルフと嬢ちゃん」
◆
僕達はオーラン帝国との国境付近、戦争の最前線で敵が来るのを待っていた。
「来たな」
「じゃあ、オレは行くぜ」
「わらわも」
「もうちょっと待って、敵がもっと来てからいこう」
「あーしは?」
「クルルがやるまで待機」
「わかった。聞いた? オリバー」
「はい」
最前線で戦闘が始まった。打ち合わせ通り、味方はヤンに近づかない。ヤンは無双状態で敵が困惑しているのが分かる。
「クルル、お願い」
敵の本部隊の前に閃光が走り、炎が燃え上がる。敵の前線は退路を塞がれ、焦り出し、平常心を失っているように見えた。
「リーン、オリバー!」
「いくよー」
打ち合わせ通り、リーン達はヤンとは別の場所に行った。オリバーのフレイミングソードで敵の傷ついた所から炎がでる。リーンはオリバーに周囲の状況を伝え、魔法を打ちながらサポートする。
「クルル。炎の線が消えたら、もう一回お願い」
「はっ? 何を言っているのじゃ」
「ん? どういうこと?」
「三日は消えん」
(半端ないな。元魔王)
ヤンとぶつかっていない敵は、ルルミア騎士などと戦っている。
(あそこ、押されているな。ん? エリオットかな)
「クルル、あそこが押されるから。援護射撃を」
「あの形の鎧のとこに、ぶっ放せばいいのじゃな」
クルルが炎の玉を打つ。そして、あそこは形勢逆転。
「オレを舐めるんじゃねぇ。人間ども、そのくらいで勝てると思うなよ」
(ヤンのところは、もう敵が来ないな)
「はっ、どりゃー!」
「アイシクルランス!」
(リーン達も頑張っているな)
「ははは、ふっ!」
(クルル、手加減してくれ)
昼前には、前線の敵を殲滅。僕達は作戦本部に戻る。
◆
「アービー本部長」
「おう、お疲れ。お前ら、えげつねぇな」
「あはは」
「あははじゃねぇよ」
「すみません。重症者は?」
「あぁ、数十人だ」
「死者は?」
「聞いているのは十二人だ」
「わかりました。救護のテントは?」
「あっちだ。 おい、お前、案内しろ!」
◆
(これが戦場か……)
救護テントの中には、痛々しい姿の味方がたくさん横たわっていた。その中に見覚えのある人物を発見し、僕は思わず叫びそうになった。
(エリオット!!)
「リーン! エリオットを頼む」
「ラルフさん。落ち着いて。トリアージがあるから」
リーンは救護班に混じり、治療をしていく。
(あー、遅い! どうみても重症だろ)
近くにいた救護に話かける。
「早くしてくれ!」
「言いづらいが、こいつらは助からん。諦めてくれ」
(馬鹿なんじゃないの? 救援要請してこれかよ)
「リーン、いいから来い! 早くしろ!」
僕は怪訝な顔をしたリーン呼んだ。
「エンチャントを何重にもかけるから、こいつにアクアヒールを」
「ふう、ラルフさん落ち着いて。今かけますから」
僕はエンチャントを何重にもかけ、リーンがアクアヒールをかける。
(これじゃ足りない。あっ! エクストラポーション)
僕はエクストラポーションを取り出し、エリオットに話しかける。
「飲めるか」
「うううっ」
(時間が無い)
僕はエリオットに口移ししてエクストラポーションを少しずつ飲ませた。
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