第25話 父と娘
「ラルフ!!」
僕の部屋にディアが慌てて入ってきた。
「ラルフ。聞いて! 神託があったの!」
僕はディアの言葉に驚くと共に、ディアが付けている腕輪が気になった。リルルが付けていた腕輪だったから。
「魔王に会いにいきなさいって」
「魔王?」
「うん。魔王」
「本当に? 何で魔王なんだ?」
「わからない。でも、あの声は間違いない。神の声」
僕は半信半疑だった。魔王に会いにいくなんて、どう考えても命の保証がない。みんなを危険にさらすのは、どうなんだと思った。
みんなを集め、ミーティングをする。ディアとリルルは魔王に会いにいくと言い、リーンはパーティーメンバーだから、みんなの意見に従うと言った。僕は決断をせまられた。
(どうすればいい……)
天を仰ぎ、そして僕は決断した。この旅の意味を考え、魔王に会おうと。
魔王城への旅の準備が整った次の日の午後、僕達は魔族領の入り口に着いた。
「ここからは魔族領になる。敵のレベルが上がるから注意していこう」
(うっ、瘴気が凄い)
魔族領に入ると瘴気が充満していた。
「瘴気除けのエンチャントかけるから、みんな来てくれ」
僕達は進む。しばらくするとスケルトンとゾンビが現れた。
「リルル。ディルに頼んでもらえる?」
「……」
「リルル? 早くディルに」
ディルはスケルトン達を焼き尽くす。そしてまた、スケルトンとゾンビ達がやってくる。
「私、いこうか?」
「いや、ディアは強敵まで力を温存してくれ」
「わかった」
三体の聖獣達は敵をなぎ倒していく。またスケルトン達が来る。きりがない。
(親玉を叩かないと)
デュラハンが現れた。
「あいつね」
「待て、あいつはスケルトン達をコントロールしていない」
「じゃあ」
「あぁ、ネクロマンサーかリッチだな。リーン!」
「ラルフさん」
「デュラハンの足を氷で止めてくれ」
「わかった」
「アイスニードル!!」
デュラハンを止めることができない。
「リーン、エンチャントかける、あれをやってくれ」
「えっ! ここで?」
「出し惜しみできない」
「わかった。ダイヤモンドダスト!!」
デュラハンもその周りも凍っていき。喰らったものは、動けなくなった。
「先に行くぞ」
『フハハハハハ』
リッチだ。
「ディア! 浄化だ!」
「わかった。 バニッシュ!」
『ナカナカヤルナ』
「もう一発だ」
「バニッシュ!」
『うぉ?』
リッチにタメージを与えている。だが、
「復活する前に頼む」
「わかった。 バニッシュ!」
『うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』
リッチが消えた。跡形もなく。
「よし、城まで行こう」
途中のザコはフェイ達がどんどん潰していく。進んでいくが、まだ魔王城までの道のりが長い。
「今日はここで野営だな」
テントを張り、休む準備をする。見張りはディル達がやってくれる。
◇
翌日
「もう一度、瘴気除けのエンチャントかける」
途中、オーガジェネラルやゴーレムが現れた。オーガジェネラルはスレイが、ゴーレムはリーンが足止めし。フェイとディルで叩く。
そして城門まであと少しの所で、僕にとって一番イヤな敵が現れた。
サキュバスだ。
『フフフ、アタイガキモチイイコトシテアゲル』
「すまぬ。エンチャントかけたら、後ろを向く」
リルルはディルを僕の護衛につけた。後ろではフェイの切り裂く音、戦っている音が聞こえる。
「しまった!」
『フフフ、ナンデーウシロ、ミテルカナ。ウシロニマワレバ、イミナイノニ』
ディルがサキュバスに体当たりし、スレイが乗れと目で訴えていた。
僕が乗るとスレイは走り、城門を抜けて、城の入り口まで辿り着いた。
『ぎぁぁぁぁぁぁぁぁ』
どうやら、サキュバスは絶命したみたいだ。僕はリルル達が来るのを待つ。
みんなが揃ったところで、僕は声をかけた。
「じゃあ城の中に入るよ」
城に入り一階を進んでいくと、また敵が出てくる。正直ディル達頼みだ。
ディル達のおかげで進むことができ、そして僕達は大広間に着く。
『フォフォフォフォフォフォ』
(ヴァンパイアか)
「ディア、十字架の魔法できるか!!」
「わかった。 ホーリークロス!」
『ウオ?』
(利いているな)
「ディア、打ち続けられるか?」
「やってみる。 ホーリークロス!」
「ホーリークロス!」
「ホーリークロス!」
『フォフォ』
「行けるか?」
「キツイ魔力が……」
僕はディアにキスをして、ありったけの魔力を注入する。
「あ♡あ♡ありがとう♡」
「ごめん、太陽の魔法を頼む」
「ホーリーシャイン!!」
『ウアァァァァァ』
ヴァンパイアは灰になり消えていった。
◇
敵を倒しながら進んでいく。階段の手前でディアにお願いし、みんなにハイヒールをかけてもらう。そして階段を上がる。
ひとつの判断ミスが死につながる。気を張りつめ続けたので、精神的にピークを迎えた。
(キツイ、でも進まねば)
◆
「ここだな」
僕達は大きな扉の前まで辿り着いた。この部屋に魔王はいるのだろう。
「みんな、大丈夫?」
リルルの様子がおかしい。元気がない。
「リルル?」
「だ、大丈夫。テイムに気を張って、ちょっと疲れただけ」
「休むか?」
「いいえ、ここまで来たから行く」
「わかった。じゃあ、行くよ」
◇
扉を開け、中に入ると、椅子に座って足を組む美しい女性がいた。
「ふふふ、よくぞここまで来た」
ドッサ
音のした方を見るとリルルが倒れていた。
「っ!」
慌ててリルルの所に行く。胸部が動いていない、息が止まっていた。僕は魔王に向かって叫んだ。
「お前、何をした!!」
「ん? わらわは何もしとらんぞ」
「そんなことないだろ!!」
魔王に向かって身構えるとリルルが突然光だした。光は大きくなり、やがて収束する。
そしてそこには、見たことのない神々しい美女がいた。そして、美女は魔王に近寄る。
「お姉様」
「ふふふ、久しぶりよのう。アテネ」
「お父様が戻って来いとおっしゃっています」
「ふっ、親父も親父だのう。直接、お前を寄越せばいいのに。試練を与えてくるとは」
「はい」
「ま、直接来たところで戻る気はなかったからな」
「……」
「苦労させて情に訴えるとは、親父も悪趣味じゃのう」
「お姉様、天界に帰りましょう」
「帰らないと言ったら?」
「……」
「まぁ、また親父の差し金が来るか……」
「……」
「その者達はどうするのじゃ。お前の仲間じゃろ」
「……」
「お前の気持ちはわかった。わらわは帰るぞよ。お前は最後の挨拶をするのじゃ」
美女は僕達に向かって言う。
「みなさん、ありがとうございます」
僕は戸惑う。何故感謝されるのか。考えられる答えは――。
「リルル?」
「ここに来れたのは、みなさんのおかげです」
美女は「リルル」と言われたことを否定しなかった。
「えっ、リル姉?」
「リーン、今までありがとう」
「リルルさん……」
「ディアさんもお元気で」
「リルル?」
「ラルフさん、一番辛い時に支えてくれて、ありがとう。あなたと出会えて良かったです」
「そんな……お別れだなんて、ウソだと言ってよ。リル姉!」
「私には帰る場所があります。みなさん……ごめんなさい」
リルルは泣いていた。雫は美しく輝いていた。
「ディル、スレイ、フェイ。お別れです。あなた達も元の場所に帰りなさい」
ディル達は笑みを浮かべ、そして光と共に消えていった。
僕は茫然とした。目の前にある光景を信じたくなかった。
「私は、あなた達を見守りますから…………さようなら」
リルルは魔王と共に光の彼方へと消えていった。
「ウソだ……、ウソだ、ウソだ! こんなことってあるのかよ!」
僕は叫んだ。
気がつくと魔族領の入り口、ポートオフィスにいた。
僕達は泣いた。突然の別れに涙が止まらなかった。
◇
一年後、僕とディアの間に女の子が産まれた。
名前はもう、決まっている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます