第23話 202&とばっちり

 あの日から僕とディアとの魔力の流し合いキスの練習は、隔日に一度行うことになった。

(ディアは毎日、練習するって言っていたけど、リリ痴女コンビがいるからね)


「準備できた? じゃあ、行くか」


 僕達は王都を出発した。次の目的地は隣の国、ザビンツ帝国の帝都だ。


 先頭にヤンとリーンを乗せたフェイ。次が僕とディアを乗せたスレイ。後方にリリルとディルが控える。


 魔獣との戦闘はフェイ、ヤン、ディルが切り込み、中衛にスレイとリーン。後衛に僕とリルルとディアが並ぶ。


 そして無事にザビンツ帝国帝都に着いた。


(いつも通り、宿屋の確保ね)


 ◆


「いらっしゃい、泊まり? 空きが少ないけど」

「はい、女子三人と男子二人なんですが」

「うーん。お客さん。二人部屋二つでも大丈夫?」


「ラルフ、オレ帝都探検して穴倉探してくるから大丈夫だぞ」

「ヤン大丈夫なのか?」

「お前、もともと俺が洞窟暮らしだったのを忘れているだろ」


「じゃあ、お客さん、決まりね」


 ◆


「あたいがラルフと一緒!」

「リル姉、あーしが取ります」

「……」


「あたいとラルフはこのパーティーで一番古株なの!」

「リル姉、あーしと一日しか違わないでしょ」

「……」

(僕としてはムチが飛んでこない方がいいんだけど……)


「じゃあ、ここは正々堂々、じゃんけんね」

「……」

〔神様、どうかお導きください〕


「「「せーの!」」」


 ◆


「ラルフ、この部屋だよね?」

「202、そうだね」

「ラルフと一緒でよかったぁ」

「リリ痴女コンビから逃げられたから、僕はラッキーだよ」

「……」

「入ろうか」


 ◆


「ラルフ。顔が険しいけど何かあったの?」

「いやね、女将さんから号外受け取ったんだけど。教国とオーラン帝国の戦争が始まったみたい」

「そっかぁ」

「ディア、気にすることないよ」

「でも」

「ディアが聖女になったけど、違う人でもなったら苦しむだろうし」

「うん」

「それよりも僕はディアが自由でいる。そのことが何よりも大切だよ」

「ありがとう……」

「そういえば、神託あった?」

「ううん、まだない。たぶんもっと北に進めと」

「そうかぁ、魔族領に入ることも考えないといけないな」


 ◇


 今日と明日と明々後日は帝都の観光にするつもりだ。

(二泊三日ね。そういえば、ヤンは……単独行動か……)


「リル姉、あそこで試飲してる」

「どれどれ。お酒じゃん!」

「行きましょ。リル姉」

「もちろん」

(お前ら、昼間から飲むなよ)


「リーン、あっちにお酒の試飲があるわ」

「行く!」

(頼む。頼むから)


「いいですね、各国の特産品が飲める。帝都サイコー!」

「あたい、ここに住もうかな」

「あっちにも!」

「行きましょ」

(誰か止めて)


 ◇


「じゃーーん! ラルフ見て! シェリー酒!」

「ちっ、ちっ、ちっ、リル姉甘い。芋焼酎! しか勝たん!」


 僕は呆れて見ていた。そんなことお構いなくリルルはリーンに言う。


「じゃ、戻ろっか」

「はーい。早く乾杯しましょ。104で! ラルフさんもほら」


「ごめん、ポーションの補充とエンチャントが効くか鍛冶屋にいってくる」

「わかった、リーンと先に呑んでるわ」

「ラルフさん、104ね。104」

(まったく、しょうがない奴らだなぁ)


「ん? どうした? ディア」

「迷子になるかもしれないから」


 そう言って、ディアは僕の服を掴んでいた手を離し、腕を絡ませてきた。

(女の子の胸って柔らかいんだよなぁ。いかんいかん、邪念を払わなければ)


「ねぇ、鍛冶屋に行くの?」

「行かないよ。昼間から飲むとか考えたくないんだ」

「じゃあさ、遊ぼっ!」


 ◆


「ラルフー、こっちこっちー」

「おいおい、そんな走るなよ」


 ◆


「このクレープおいしいね」

「そうだね」

「あっ、そっちのイチゴクレープも食べてみたい」

「じゃあ、チョコレートクレープも分けてもらえる?」

「いいよー」


 ◆


「ここ素敵ね」

「あぁ、町を見下ろせる所なんて、そんなに無いだろうし」


 ◆


「あっ、これ! 名前を書くと幸運を呼び寄せるやつじゃん」

「いや、名物でも、器物破損になるから」

「えーー。ケチー」

「僕達はギフトをもらっているんだから、見本にならないと」

(ん? リリ痴女コンビは見本になっているかぁ?)


 ◆


「そろそろ戻ろうか」

「……うん」


 ディアと話をしていると、ヤンが向こうからやってくる。


「おう、ラルフ」

「ヤン」

「見つかったぞ。二泊だよな?」

「そう」

「明後日はどこに行けばいいんだ?」

「噴水のある広場にしよう」

「わかった。じゃあ、また探検してくるわ」


「……ねぇ、ラルフ。もう少し遊びたい」

「あいつら待ってるし戻るよ」

「……」

「ディア、戦争が始まって不安だろうけど、部屋一緒だからね。傍にいれるから」

「うん、わかった」


 夜の帳が下りる頃には、僕とディアは宿屋に戻ってこれた。そして二階の部屋の中に入るとディアが抱きしめてきた。


「ラルフ。私の気持ちわかる?」

「伝わってきているよ」

「ねぇ」

「……」

「後悔したくないから言うね」

「……」

「私、あなたが大好きです。一緒にいてください」


 ディアが強く抱きしめてくる。僕は強く抱きかえす。


「ありがとう」

「じゃあ」

「うん。よろしくお願いします」

「うん。こちらこそ」


 ディアが屈託のない笑顔を僕に見せた。


「あのね、私、あの二人に取られたくないの、だから」

「うん」

「抱いて」


 僕らは、まずキスで魔力交換をした。ベッドに潜り、二人で魔力交換をした。全身を使っての魔力交換。何度も何度もし続けた。朝が来るまで。


 ◆


(やべっ、昼まで寝ちゃった)


「ディア、ディア」

「う、うーん」


「僕、服着て、104に行く。もしかしたら誤魔化せるかも」

「うーん、気を付けて」


 104に着いて扉を開ける。


(予想通り開いているな。無防備過ぎるだろ)


 二人は同じベッドに寄りかかり、寝ている。僕はもうひとつのベッドの上で天井を見つめる。

(ディア、可愛かったな。勇者パーティーのいた頃には考えられなかったよ)


 目を閉じると、

(ヤバい。眠りに落ちる)


 ◆


「ラルフ、起きんかい!」


 リルルは僕の上に勢いよく覆い被さる。


「ぐふっ」


「あーしも」


 リーンは、僕とリルルの上に勢いよく覆い被さる。


「トーテムポール!」


「違うよー。リーンちゃん、天動説だよ。ははははは」

(どうツッコんだらいいのか)


コンコンコン


ガチャ


「みんな、起きてるー?」


「お前ら、どいてくれ」


 ディアが来たので、二人を引っぺがす。


「ディアたそ。なんで来なかったの?」

「ホントよ。ラルフいるし。今夜は来てよね」


「ごめんごめん。旅の疲れがでちゃって」

「今夜来なかったら、秘密バラすから」

(リルル。秘密って何?)


「いや、お前らさ、今日も飲む気なの? 記念日だけ飲むって決めたじゃん」

「何よ。他人のこと言えないくせに」

「昨日は初帝都だからいいんだよ」

「はつてーと? はつでーと? 初デート記念日! いやほーい!」

(リルル。どうやったら、そんな思考になれるんだ)


 ◆


「明日から、辺境のポートオフィスに向かうよ」


 みんなに今後のことを伝える。リルル達は話を聞いているのかわからない。


「お腹減ったー」

「ぺこりんちょ」


 そんな二人にディアが、


「これ、買ってきたよー」

「えっ、ホットドック。いつ買いに行ったの?」

「104に入る前」


「ディアたそ、ありがとう」

「ディアちゃん、チュキー」


 二人がディアを抱きしめているが、僕はみんなに言った。


「じゃあ、食べたら、町を散策しよう」


 ◆


「リル姉、あっちにお酒の試飲!」

「よし! 行くわよ」

(既視感が……)


 ◆


「今日こそは勝つからね」

「リル姉には負けない」

「何を勝つんですか?」


「部屋決めよ!」

「えっ」


「当然じゃなーい。一泊ずつなんだから」

「それって」

「じゃんけんよ、じゃんけん」


「……」

〔神様ごめんなさい、また力をください〕


「「「せーの!」」」


 ◆


「ラルフ、この部屋だよね?」

「205に移動してくれって言ってたから」

「荷物は?」

「給仕の人が動かしてあるって」

「そうなんだ」

「入ったら、確認しよう」


 ◆


 夜


「ラルフ。なんか廊下、騒がしくない?」

「ちょっと、見てくる」


 廊下に出て、周りをみるとリルル達がいたので思わず隠れた。そして、集中して音を聴く。


ドンドンドン


「ラルフいるんでしょ」

「ラルフさん、今日も飲むです」


ドンドンドン

ドンドンドン


「あ”誰だてめえら」

「マジうっせいんだけど」


(あぁ、昨日の202を叩いていたのね)


「兄貴、ラッキーですよ。いい乳してます」

「そうだ。お前ら、一緒に呑むぞ、迷惑料だ」


(あぁ、ご愁傷様です)


「ラルフ」

「ん?」

「今日も魔力交換しよ♡」


 ◆


「じゃあ、ポートオフィスへ向かうか」


 翌朝、僕達は帝都を立ち去り、辺境の町ポートオフィスを目指した。


 ◇◆◇◆


「困ったお客さんだねぇ」

「女将、どうした」

「チェックアウトしてないから、様子を見に行ったら、縄で縛られて、痣と火傷の跡があるんだよ」

「そうなのか」

「ローソクとか、なにかで床が傷ついているから、修繕費も取らないとね」


 ◇◆◇◆


 ポートオフィスへの道中は、問題ない。問題なのは宿屋だ。今のところディアが十二連勝して、事なきを得ているが、いつ終わるか冷や冷やしている。

(まぁ、魔力交換タイムがあるからね。勝ってもらわないと)


 そして、遂にポートオフィスに着いた。


「ディア、神託は?」

「来ていない」

「じゃあ、万全を期して準備しなくちゃな。魔族領に宿屋無いから」


 僕達は手分けして準備……、できればいいんだけど無理なんだよ。


「ラルフ、この荷物は魔族領に行くのか?」

「そうだよ、ヤン」

「じゃあ、オレ、パーティーから抜けるわ」

「えっ! どうしてだよ!」

「サキュバスとかの強いチャーム(誘惑)にかかるとお前らの首を刎ねるからさ」

「それはディアの力でチャームは何とか……」

「いや、解く前に、お前ら、瞬殺するぞ」

「そうかぁ」

「まぁ、オレこの町にはいるから、用が済んだら戻って来いよ」

「わかった。必ず戻る」

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