第19話 side オリバー

 せっかく王都に来たので、俺は王国騎士団を見たいとラルフさんにお願いした。


「いいぞ、僕も国王陛下に呼ばれているから、一緒にいこう」


 今日は女性陣は仲良く、ショッピングらしい。


 ◆


「お待ちしておりました。ラルフ様」


 王城に着くと少女が待っていた。

 ブロンドの長い髪に、透き通るような青い瞳、美しい笑顔に女性らしい体のライン。

 俺は一瞬で心を奪われた。


「どうしました? オリバー君」

「えっ」

「ふふふ、昨日会いましたよ。町娘の恰好でしたけど、ほら」

「あっ!」


 思い出した、ポニーテールにしていた子だ。ってことは王女様!

 驚きのあまり固まっているとラルフさんが、


「もしかして、今日は王女様が案内してくれるんですか?」

「はい、お父様がお待ちしております」


 俺はラルフさん達と共に緊張しながら後をついていく。


 ◆


「こちらの部屋にお父様がいます」

「あっ、そうだ。オリバーが騎士団を見学したいらしく。誰か案内人をつけてもらえないでしょうか?」

「それなら、私が案内しますね」

(えっ)


「王女様、それは悪いよ」

「いいんです。私、今日も騎士団を見に行くつもりでしたから」

「そうか。それならオリバーのことをお願いしてもいいかな」

「はい、ラルフ様」


 ラルフさんが部屋に入り、俺と王女様が取り残された。


「じゃ、オリバー君、行きましょうか」

「は、はい」


「オリバー君はカーン伯爵の嫡子でしたっけ?」

「い、いや、兄貴がいるから」

「そうなんですね。あっ、私のことはネルって呼んでください」

「えっ」


 俺は幼い頃、パーティーで迷子になったことがある。その時、ネルって言う女の子が同じように迷子なっていた。そして、ふたりで玄関先に行って、親を待っていた。そのときの記憶がよみがえってきた。


「えーっと、王女様」

「ネルって呼んでください」

「えーっと、ネ、ネル。パーティーで迷子になって玄関にいたことある?」

「そうですね。小さい時にありましたね」

「その時、一緒に男の子がいましたよね?」

「はい、オリバー君と一緒にいました」


 俺は金づちで頭を打たれたように、びっくりした。


「オリバー君が行方不明になったことを聞いて、もう会えないかと思ってました」

「あはは、そうなんだ……」


 そんなことを話していると、騎士団の訓練所に着いていた。そこには、整列する騎士達がいる。


「王女様、お待ちしておりました。これから実践訓練に入るところです」

「わかりました。いつもの所にいますね」

「はっ」

「オリバー君、行こ」


 王女様、いや、ネルの後について行くと、訓練所が見渡せる所に着いていた。


「ここから、訓練をいつも見ているんです」

「すごい」


 俺は騎士達の稽古を見て、目が離せなかった。


「王女様」

「ネール!」

「あっ、ネル。これ僕の夢なんだ」

「夢?」

「そう、王国騎士団に入ることが夢なんだ」

「そうなんですかぁ」


 王女様、いや、ネルは拳を顎に当てて何か考えている。


「オリバー君、お父様に聞いてみるけど、訓練生になる?」

「えっ!」


 俺は驚いた。ただでさえ騎士団に入るのが難しいのに、試験を受けずに訓練生になることは、まず無いからだ。


(これは、チャンスだ。国王陛下次第で訓練生になれる)


「あの、お願いしてもいいですか?」

「はい、わかりました! 聞いてきますね」


 そう言ってネルはこの場を去っていった。

 それから俺は訓練の続きを見る。体の動かし方や剣のさばき方、駆け引き。すべてが新鮮だった。


「オリバー君、オリバー君」

「はっ!」

「声をかけているのに無視しないでください」

「ごめん、凄すぎて」

「もう。それで、お父様が言うには」

「いうには?」

「仮訓練生として一ヵ月やって、見込みがなかったら、正規の試験を受ければいいって」

「ということは……」

「うん、とりあえず一ヵ月やってみて」


(ここで死に物狂いで頑張れば騎士団に入れるかもしれない)


「はい、よろしくお願いします。頑張ります」


 ◆


「じゃあ、オリバー君、またね」


 ネル王女に見送られ、俺はラルフさんと一緒に城をあとにした。


 ◆


 宿屋に着き、俺はラルフさんにお願いをする。


「ラルフさん、皆さんに伝えたいことがあるので……」

「わかった。みんな集めて来るよ」


 それから数分後、共に旅をした皆さんが集まってくれた。


「みなさん、俺の夢は騎士団に入ることです。今日、王女様と一緒に見学して、入りたい気持ちが高まりました。そして、王女様の計らいで、一ヵ月仮訓練生としてやって、認められれば、訓練生になれることになりました。このチャンスを逃したくないです。我儘ですが、俺、王都に残ります」


「ははーん、そんなこと言って王女様に会いたいんだろ。好きって顔に出てるぞ」

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