第17話 カーンと人民

 王都への道のりは順調。途中、オリバーの剣に炎のエンチャントをかけたら、フレイミングソードになり、オリバーは喜んでいた。

(早く気づけばよかった……)


「ラルフさん、いいですよね。三人に囲まれて」

(そのうち二人は痴女だけどな)


「俺、婚約破棄されたから」

(何をしたんだ? オリバー・カーン)


「誰かいい人がいないかなって探しているんです」

(リーンあたりが面白いと思うよ。人民の人民による人民のための政治になるから)


 そして、僕達は王都に着いた。


 ◇◆◇◆


 私は今、城の護衛の目を振り切って、城下町を散策している。


「わぁ、こうなっているのか~」


 食欲を誘うにおい、通り過ぎる人達の笑顔、活気づいているのがわかった。

(やっぱり、城の中だけではダメね。民の感覚も知らないと)


 そう思いながら歩き続けると、後ろから声をかけられる。


「お嬢ちゃん」


 振り向くと笑顔みせる男がいた。


「どう、時間があれば、お茶しない?」


 ナンパだ。


「私、時間がありませんので結構です」

「そう言わずにさぁ、俺、スタロン、勇者やっているんだ」


 男が帯同している剣には王家の紋章があった。

(この男が勇者なのね。体格もいいし、魔物と戦っているのも納得)


「俺、この町のいい所、知ってるから」

(確かに、この男がいれば、ナンパの虫よけになる)


 そう思って、男について行く。途中、「スタロン!」と遠くで呼ぶ声が聞こえたが、知り合いなのだろう。

 歩き続いて着いた先は宿屋だった。


「この中の食堂いいんだぜ」


 ちょうどお腹もすいてきたし、中に入る。すると男は私の手首を掴み。


「歩き疲れたろう、ちょっと休もうか」


 二階の部屋へ無理矢理連れていかれ、ベッドの上に放り出される。男は獲物を狙うような目で私の体をなめまわす。


「気持ちいいことして、それから休もうか」

(あぁ、この男は最初から、そのつもりで声をかけてきたんだ)


 男は私の上にまたがって、乱暴に服を剥ぎ取り、私の胸を揉む。


「いやー、止めて、離して」


 男の手は止まることなく、胸を揉み続け。


「気持ちいいか? こっちも良くしてやるからな」


 そういって下半身の大事なところを触ってくる。


「ホント、やめて、お父様に言いつけるわよ」

「親父さんも喜ぶよ、勇者に慰めてもらうんだから」


 こんなやつ、勇者じゃない。民を救う者でもない。服は脱がされていき、私の体を……。


「いやぁーー!」


バターン


 別の男が入ってきた。この男にも慰み者にされるのか


「スタロン、てめぇ馬鹿なのか、あれほど町娘に手を出すんじゃないって言ったろ!」

「あ"ぁ、誰だてめぇ? ラルフじゃねぇか! 邪魔すんじゃねぇよ!」

「お前、自覚持ったらどうだ? こんなことしたらパーティーだけでなく国王の評判落ちるだろ」


 まったくもって、その通りだ。どうやらこの男は味方してくれそうだ。


「助けてください、私こんなことイヤです」


 その男は勇者に殴りかかるが、止められ反撃にあう。


「今のうちに、逃げろ。下に仲間がいる」


 その言葉を信じ、部屋を抜け出し階段を降りると、女性達とダークエルフがいた。女性は手に持っているローブを私にかけてくれた。


「ラルフが時間を作っている間に逃げるわよ」


 そう女性に言われ、ついて行く。ダークエルフの男もついてくる。


「大丈夫、彼、護衛だから」


「すみません、城までお願いします」


 私は泣きながら、力なく言った。


 ◇◆◇◆


 王都に着いて、宿屋を確保し、みんなで町を散策する。


「へぇ、人間って、こんなの作るんだ」

「そうだよ。ここは国の中でも一番のところだよ」

「戦っていい?」

「ダメだろ」


 そう和気あいあいと話していると、遠くに見覚えのある姿があった、スタロンだ。

 少女らしき人が隣にいる。嫌な予感しかしない。


「スタロン!」


 そう叫ぶが聞こえないようだ。

(あいつ、たぶん隣の少女を犯す)


「オリバー、リルル、ディル達と広場に行ってくれ、ヤン、ディア、リーンは僕についてきてくれ」


 雑踏の中を走っていき、宿屋が目についた。

(きっと、そこだろう)


 宿屋に着き、中に入る。


「すみません、急ぎなんですけど」

「いらっしゃい、泊まり?」

「筋肉質の男と少女が来ませんでしたか? パーティーメンバーなんですけど」

「あぁ、それなら、二階の突き当りの部屋にいるわ」

「ありがとうございます。みんなここで待機してくれ」


 そう言って、階段を駆け上がり、間違いがないか部屋のドアに耳をつける。嫌がる女の声が聞こえた。

(ここだ)


 乱暴にドアを開けると、予想通りスタロンが少女を襲っていた。


「スタロン、てめぇ馬鹿なのか、あれほど町娘に手を出すんじゃないって言ったろ!」

「あ"ぁ、誰だてめぇ? ラルフじゃねぇか! 邪魔すんじゃねぇよ!」

「お前、自覚持ったらどうだ? こんなことしたらパーティーだけでなく国王の評判落ちるだろ」

(とにかく、逃がす時間を作ろう。)


 スタロンに殴りかかる。取っ組み合いの喧嘩になるが、エンチャントしても、やはりスタロンの方に分がある。

 顔を殴られ、頭が床にぶつかる。必死に抵抗する。

(もう、いいだろう)


 スタロンを引き剥がし、そして逃げる。スタロンは下半身が脱ぎ掛けなので、すぐに部屋からは出られない。

 宿屋の女将に銀貨を放り投げ、走る。

(広場まで行けば大丈夫だろう)


 そして、広場に行き、リルル達と合流した。


 ◆


 国王陛下は宰相からの報告を受け、娘の部屋に向かう。


「お父様!」

「おー、大丈夫だったか?」

「ごめんなさい。私、勝手なことして」

「そんなより、体は大丈夫だったのか」

「……胸を揉まれ、大事なところも……。けど、この人達が助けてくれました」

「それで、本当にやったのは勇者なんだな」

「はい、そうだと思います。助けてくれた男の人と喧嘩していたので、その人に聞けば」


 国王陛下はディア達に向かって言った。


「そちらの者達よ、娘を助けてくれてありがとう」


 ディアは答える。


「陛下、私たちは、王女が逃げてきたのを助けただけです」

「それで喧嘩した者は?」

「ラルフと言う者です」

「わかった。その者を連れて来い」


 リーンはヤンに話しかける。


「ヤン、広場まで迎えにいってくんない?」

「はぁあ、お前が行けばいいじゃん」

「あーしは、王女の傍にいる」

「はぁ、人間ってこうも面倒くさいのか。わかった、貸しな」


 ◇


 数刻後


(王女だったのか……)


「ディル、スレイ、フェイ待っててね」


 ラルフ達はヤンと共に門番に許可を得て、国王陛下のいる部屋に向かう。


「この部屋になります」


 護衛が案内してくれた部屋の中に入ると王女様が近づいてきた。


「ありがとうございました。お怪我は?」

「大丈夫。ピンピンしているよ」

「そうですか。良かったです」


 国王陛下は僕に言う。


「ラルフよ」

「はい、陛下」

「聞きたいのだが、娘を襲ったのは、勇者で間違いないか」

「はい、間違いありません。勇者スタロンです」


 陛下は護衛に向かって、


「勇者を探せ、ここに連れてこい」

「「はっ!」」


「お主らは証人として残れ、わかったか」

「はい、仰せのままに」

「ラルフとやら、もう一つ聞きたいことがある」

「はい」

「サンタナ公爵とニゲール子爵の不正を暴いたのは、お主の主導だな?」

(おーい、エリオット、何で伝えたのよ?)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る