第16話 エリオットの歯ぎしり

 野盗達に遭遇した後、もう一台馬車を止めたが。積み荷が食料品だったので、止めたことを謝った。

 そして、カーン伯爵邸についた。


「ただいま~」


 メイド達はオリバーを見て驚き、慌ただしく来客対応の準備をする。僕達は、客間に通され、伯爵様を待った。


「オリバー、無事だったか」

「はい、この人達に助けてもらったよ」

「助けて?」

「教国の神殿まで攫われて連れていかれたんだ」

「はぁ、そう、それで……」

「うん。手枷を嵌められて、ラルフさん達に救ってもらったんだ」


 オリバーと話をしているのが、どうやらカーン伯爵みたいだ。伯爵様は僕に言う。


「そうでしたか、息子が世話になりました、ありがとう」

「いえいえ、無事でいたので良かったです。それで、お願いがありまして」


 僕は伯爵様にお願いをする。サンタナ公爵様に奴隷にされそうになったエルフの少女三人を保護してくれないか、できれば国王を通してエルフの王に保護していること伝えて欲しいと。


「サンタナ公爵、ニゲール子爵がこの件に絡んでいるので黒い噂とか知っていますか?」

「あぁ、サンタナ公爵は出ていないが、ニゲール子爵は奴隷の扱いが酷いと聞いている」

「わかりました。ありがとうございます」

「疲れているだろうから、泊まっていきなさい。細かい話も聞きたいのでな」


 ◇◆◇◆


 家に戻ってこれた日の夜、俺は家族と相談していた。


「親父」

「どうした?」

「俺、ラルフさん達と旅をしたい」

「どうしてだ?」

「強くなりたいんだ。そして、俺は王国騎士団に入りたい」


 翌朝


「オリバー」

「何?」

「これを持っていけ」

「親父、これ……」

「そうだ、家宝だ」


「なんで……兄貴もいいの?」

「おう、親父とも話したが、お前が死ぬのなら、ここに置いていても意味がない。この剣はお前を守る。ご先祖様の力が宿っているからな」

「わかりました。我儘言ってすみません」


 ◇◆◇◆


 お昼前、カーン伯爵家全員に見送られ、出発。エルフ達からも感謝の言葉をもらった。


「しかしまぁ、人間って面倒くさい生き物だね」

「特に貴族社会はね」

「貴族? よくわからん。次はどこ行くんだ?」

「ニゲール子爵のところだよ」

「ふーん、まあ、戦えれば何処でもいいけど」


 ◇◆◇◆


トントントン


「入れ」

「失礼します、子爵様」

「マリー、そこにいないで座りなさい」

「あ、ありがとうございます」


 マリーと呼ばれたメイドは体を震わせながら、ソファーに座る。


「今夜、私の部屋に来なさい」

「……」


 マリーは俯いて、言葉が出せない。


「まぁ、来なくてもいいぞ、奴隷たちのように痛い思いしたいのなら」

「……」

「あっ、そうそう、護衛のエリオットだっけ? そいつも痛めつけるからな」

「!!」

「来るかね? 来ないなら、別の女を呼ぶが」


 マリーは考えた、自分一人ならともかく幼馴染のエリオットまで拷問されるのは……。そして、こう答えた。


「は、はい、喜んで、子爵様の所に参ります」


 ◇◆◇◆


 道中は何事もなく順調に進み、一日半かけてニゲール子爵邸に着いた。


「ここか、ラルフ」

「あぁ、そうだな」

「面倒くさいから、とっとと行って殺っちまおうぜ」

「わかった。リルル、ディルをお願い。あと子爵が逃げるかもしれないから、捕縛よろしく」

「おーけー、あたい待っているわ」


 ◇◆◇◆


「エリオット、お前ラッキーだったな」

「俺にとってはアンラッキーなんだけど」

「そうかぁ、嬌声が聞こえてきて、たまらないだろ」

「俺はそういうの嫌いなんだ」


 エリオットは門番から、子爵様の護衛に回されて、悪態をついた。自分勝手な子爵様の夜伽に付きあうなんて、まっぴらごめんだったから。


「そういえばお前、隊長になるの断ったんだってね、どうしてだい?」

「決まっているだろ(マリーの傍にいたいんだ)」

「へー、そうかい、深くは聞かないけど」


 エリオットは視界にはマリーがこちらに向かっている姿があった。


「っ!!」

「あー、最悪だな。エリオット。しょうがない、これも仕事だ」


 マリーは部屋の前に着き、涙目でエリオットを見つめた。


「ごめんなさい……」


 エリオットは引き留めることができず。手を握りしめ、歯を食いしばった。


 扉が閉まり。


「すまん。俺、マリーを連れ戻す」

「やめろって、ヤバいぞ。死ぬぞ!」


ドゴーン

ドゴーン


(何が起こった? これはチャンスかもしれない)


 エリオットはつかさず扉をあけ、部屋の中に入り、


「子爵様、賊が入りました。この音から、かなりの強者だと考えます」

「ちっ、これからお楽しみだというのに」

「どうか、お逃げください」

「わかった」


 もう一人の護衛がエリオットの前に出て、こう言う。


「子爵様、ここから、私がご案内いたしますので、ついて来てください」


 護衛はエリオットに小さい声で「貸しな」と。

 エリオットは子爵が部屋から出ていくのを見届けた後、


「マリー大丈夫か!」


 マリーは涙を流しながらエリオットに抱き着き、


「怖かったよ~。エリオット~、もう離さないで」


 ◇


「ギャー」

「助けてー」


 屋敷の中が慌ただしく戦場化しているのがわかった。


 ◇◆◇◆


 ディルが炎のブレスで屋敷を壊す。


「もう行って、皆殺しにしていいか?」

「抵抗する奴だけにしてくれ」


「ちっ、つまんねえな」

「怪我したら助けるから」


「まったく、卑怯者が」


 ヤンは屋敷に入り、抵抗する者の首を刎ねて行く。


 ラルフ達は屋敷を散策する。


「ヤンさんがいるから、俺の出番なさそうですね」

「とりあえず、奴隷を探そう」

「あーし、書斎か寝室にいって子爵の口を割らせる方が早いと思いまーす」


 ◆


「ここかな」


 ラルフはそう言い、オリバーが扉を蹴り破る。部屋の中には男と女がいた。男は女を庇うように、剣をラルフに向ける。


「僕はラルフ、君達に危害を加えるつもりはない、奴隷のいる所を知っていたら教えてほしいんだけど」

「そんなこと言って、騙されないぞ」

「はぁ、別の部屋を探すぞ」


 ラルフは部屋を出る前に振り向く。


「あぁ、そうだ。褐色の肌のダークエルフが来たら、剣を向けない方がいいよ。一瞬で殺されるから」

「わかった。俺はエリオット、ご忠告ありがとう」

「じゃあね」

「待て、牢屋を知ってる。案内する」


 ラルフ達はエリオットとマリーの案内で書斎に着き、中に入る。


「この本棚が動く、奥に牢屋がある」


 そう言って、エリオットは本棚を動かし、ラルフ達を引き連れ奥へ行く。

 そこには、檻の中に閉じ込められている傷だらけの少女達がいた。

(許せん)


「この檻、ヤン、いける?」

「刃こぼれすっから、面倒くせぇ」


「オリバー、エンチャントかけるから、檻を曲げてくれ」


 オリバーは檻を曲げて、人が出入りできる幅まで広げた。


「檻の中の皆さん、助けに来たから。このお姉さんに傷を治してもらってね」


 ディアが少女達を治している間、僕はエリオットに頼む。


「僕達保護できないから、この子達をこのまま屋敷で預かってくれないか?」

「うーん、エリー達に頼んでみるよ」


 書斎に戻り、僕はみんなに言う。


「みんな、不正取引がないか。一緒に書類を漁ってくれ」

「わかった」


 僕達は書類を漁っていく。すぐにお目当ての書類が見つかり、エリオットを呼ぶ。


「あぁ、サンタナ公爵も黒だ。エリオット!」

「ラルフ、どうした?」

「公爵家に、今日、僕らがやったようなことをすると、王族の反感を買い、身が危険になる」

「どういうことだ?」

「これらの書類を国王に渡してくれ」

「密告だな」

「そう、それと今回のことはエリオットがリーダーとなって、調べたと伝えてくれ」

「いいのか?」

「訳ありでね。そうしてもらいたいんだ」

(僕とディアが勇者パーティーにいたとか知られたら、ヤバいでしょうよ)


 ◆


「ヤン、ずっと思っていたんだが、剣は使わないの?」

「あぁ、オレはサーベル曲刀の方があってる」

「そんなものなんか」

「逆側使って、首に入れば、逃げらんねぇ。刎ねるコツを覚えれば、楽勝だからな」

(鎌を持つ死神と同じじゃん……)


 ◆


 僕達は外に出ると、捕縛されていた者達がいた。


「これで全員よ」

「わかった。ニゲール子爵は?」

「こいつ」


 リルルの近くには、太っている中年の男が転がっている。その男のもとへ行くと、男は僕を睨み付けた。


「お前たち、失礼だぞ、不敬罪で訴えるぞ」

「ニゲール子爵か?」

「そうだ。早く縄を解け」

「その前に聞きたい、奴隷にどんなことをしていた」

「答える義務はない」



「リルル、リーン、お願いする」

「まかせて」


バチン


「女王様とお呼び!」

「痛っ、誰だと思っているんだ!!」

「知らないおじさん」


バチン


「あの子達の傷、あなたが原因でしょ?」


バチン


「やめろー」

「フフフ、足りないようだね」


 リルルは子爵にローソクを垂らす。


「熱っ」

「熱いのね? わかった、冷やしてあげる」


 氷で作った針山をリーンは準備していた。


「リル姉、ここまで押してきて」

「やめろ、押すな押すな押すな!」


「それって、押せって意味でしょ」

「やめろー」


 リリルは針山の手前まで押していった。


「今度は、あーしね。この薄汚いブタ野郎め!」


 リーンは氷の玉を子爵の上から落とす。


「いたーい」


 子爵は涙目になる。


「オリバーいけるか?」

「ラルフさん、人間はまだちょっと……」


「オレ、待ちくたびれて、つまんねえんだけど」

「ヤン、いいぞ」

「早く言えって」


 ヤンはニゲール子爵の首を刎ねた。


「これで終わりね。次はどうするの?」

「うん、王都に行く」

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