第15話 サーベル使いの最狂男

 国境へ向かう道中。魔獣に遭遇した時は、オリバーとリーンが戦い、フォローにフェイが仕留める。

 それでも、抜けて来る魔獣はスレイが足止めしてくれた。僕達は国境に着き、出国の手続きをする。


「滞在証を返却してください」

「すみません。滞在証を二つ失くしまして」

「わかりました。一つにつき、銅貨五十枚、お布施をしていただければ」


 僕は銀貨を渡す。


「はい、これで手続きは完了です。またのお越しをお待ちしております」


 ◆


 魔獣に遭遇するが、順調に旅は進んだ。


「この町で宿屋を取ろう。あっ、その前に今までの魔石を換金しに行こうか」


 僕達はこの町の冒険者ギルドへと行く。ギルドに着き、中に入ると重苦しい雰囲気に包まれていた。


「すみません、何かありました?」


 受付で聞くと、ダンジョンに向かった何組ものパーティーが帰ってこないと。そのことがここ二ヵ月続いているそうだ。


「調査に行った、パーティーも帰って来てないのよ」

「そうなんですね。そのダンジョン、推奨ランクがSとかAとかなんですよね?」

「いいえ、Dよ」

「えっ」

「そう、BとかCとかのパーティーも戻って来てないから、困っているのよ」

「そうなんですね」

「ここのギルド、Aランクパーティー、一つしかないから、むやみに行かせることも難しいの」

(そうか、Aランクパーティーがいなくなるとギルドとしてマズイのか)


「僕は行こうかなと考えているんだけど、みんなどう?」


 僕がそう提案すると、みんな、了承してくれた。


 ◆


 翌日、ダンジョンへ向かう、馬車で二日かかるが、ディル達がいるので問題ない。ダンジョンに着き、みんなに声をかける。


「みんな気を付けて、バックアタックとかも考えておいてね」

「スレイ、待っててね」


 一層、二層、三層は魔獣の死骸のみ。四層からは死体と死骸しかなかった。

(魔石がこんなに残っているって不思議だな)


 そして、ようやく生存者を見つけた。

(傷がかなり深い、致命傷だな)


「時間がない。ディア」

「わかった」


 ディアが回復魔法をかけ、僕は呼びかける。


「大丈夫か! 大丈夫か!」

(耳が長い――ダークエルフか……)


「うー、うーうん」


 ダークエルフの意識が戻り、状況を教えてもらう。


「どうなっているだ? 魔獣も人も全部やられていたんだか?」

「あぁ、オレがやった」

「えっ」

「まったく、相打ちなんて、しくじったよ」


 ダークエルフの彼は普段から洞窟に棲んでいて、洞窟から洞窟へと旅をし、このダンジョンに棲みついたそうだ。


「オレ、ここ好きなんだよね。毎日戦えるから」


「ラルフ、どうするの?」

「あぁ、ギルドに報告だが、たぶん彼に勝つのは難しいから、このままにしておくと、死者が増える」

(できることなら、彼を懐柔して、被害を少なくしなければ)


「僕はラルフ、君は?」

「ヤンだ。オレ、お前たちとも戦ってみたいが、助けてもらったしな」

「ヤン、提案なんだけど、僕達のパーティーに入ってもらえないかな」

「たくさん、戦えるのか?」

「あぁ」

「一度、死んだ身だしな、わかった」


 八層までの死者の人数を伝え、そこで調査を打ち切ったことを報告した。そして、オリバーとヤンのギルドカードも作った。


 ダークエルフ(ヤン)は各種族に対して(エルフを除いて)中立な立場をとるが、刃向かうものは容赦なく斬り捨てる残虐性を持っているから、敵に回すと厄介だ。


 ◇


 翌日、カーン伯爵邸へと旅立つ。遭遇する魔獣はヤンが斬り捨て、逃したのをオリバとリーンで仕留めていく。フェイ達は待機だ。

 問題なく進んだある日のこと。


「ラルフ、あそこで戦っているぜ」


 見ると、馬車を囲み、野盗と護衛の冒険者が戦っていた。


「殺っていいか?」

「薄汚い奴、全員いいぞ」


 ヤンは現場に駆け付け、次々と首を刎ねていく。護衛の冒険者はその様子をみて、方々へ逃げて行った。

 ヤンは御者も殺そうとしたが、僕が止めた。


「御者」

「は、はい」

「積み荷をチェックする」

「は、は、はい」

(はぁーーあ)


 積み荷を確認すると、そこには檻に入れられた三人のエルフの少女達がいた。状況を確認するために御者に問いかける。


「これはどういうことだ?」

「ど、どうか、命だけは助けてください」

「あの子達をどうするつもりだ。正直に言え、でなければ殺す」

「ど、奴隷会館まで運び」

「運び?」

「奴隷紋を付けて、サンタナ公爵に」

「ほー、他にもいるか?」

「ニゲール子爵にも」

「それだけか?」

「は、はい、私が関わっているのは、そこだけです」

「ふーん、今までどのくらい渡したの?」

「八十人近くだと……」

「ヤン」


 ヤンは御者の首を刎ねた。そして、ヤンは積み荷を確認する。


「オレ、エルフ大っ嫌いなんだけど、殺していいか?」


 エルフの少女達は怯えて泣きはじめた。


「殺しちゃダメだ。保護する。問題はその後どうするかだ」

「森に帰してあげるほうがいいんじゃない?」

「それは無いな、森まで送れば、ヤンがエルフ達の首を刎ねていくぞ」


 リルルの提案を否定すると、オリバーから。


「ラルフさん」

「オリバーどうした?」

「俺ん家には奴隷がいないので、そこに連れていっても……」


 目つきが鋭かったヤンに僕は言う。


「だそうだ、ヤン」

「わかったーよ、殺さなければいいんだろ、殺さなければ」


 僕が御者をやり、両脇にはヤンとオリバー。積み荷のところには残りのメンバーがついてくれた。

 そして道中に野盗達が現れる。


「おーっと、止まりな、武器を捨てて、おとなしく…」

「ヤン」


 ヤンは野盗ども全員の首を刎ねた。


「もっと遭遇しないかな♪」

(ヤン……)

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