第11話 人攫いと自己紹介
総本山の麓から神殿までの道中、スレイが現れたテンプルナイトを眠らせていく。そして僕達は神殿にたどり着き、大聖堂へと向かった。
ミディアは祈りを捧げる身だから、大聖堂から遠い場所にはミディアの部屋が無いと思ったからだ。
「リルル、フェイが目立つように」
「わかった。フェイ、暴れていいわよ」
神殿を壊していく、物凄い音が聞こえる。聖職者が逃げ出しているのがわかった。大聖堂へ着くと、そこには豪華な服を着た男と白いベールを付けた女がいた。
(もしかして……)
「リルル、フェイにあの男を脅すように指示してくれ」
フェイは男に近づいていく。
「く、く、来るなー!」
フェイは歩みを止め、男を睨み付ける。
「わ、わーーーー」
男は逃げ出していった。それを確認して、僕は女のいる方へと駆け出す。
「えっ! ラルフ! 来ちゃダメ。ラルフ、来ちゃダメーー!」
僕は女に近づき、そして抱きしめる。
「迎えにきたよ。ミディア」
「なんで? あなたまで死んじゃう」
「大丈夫、死なないから」
フェイはこちらを見てから、リルルのもとへ行く。
「ね。フェイは味方だから」
「どういうこと?」
「あぁ、フェイはテイムされているんだ」
ミディアは呆然としているようだ。
「ミディア、これからはディアって名乗るんだ。聖女だってバレないように」
聞いているかどうか、わからなかったが、ディアを連れてリルルとフェイのもとへ。
「待って。助けたい子がいるの」
「??」
「その子、手枷を嵌められて、司教に犯されそうになったの」
(おいおい、聖職者が何してんの。穢れてるよ。ふざけんな、マジで)
「わかった。どこにいるか教えてくれ」
ディアの案内で向かう。着いた先には、後ろ手に手枷を着けさせられている少年がいた。
「ディア、彼か?」
「うん」
少年は何が起こったか、わからずに怯えていた。
「僕はラルフ、君は助かりたいか? 大丈夫、安全は保障するから」
少年は黙り込んだままだ。
「ディア、これ以上時間はさけない。無理矢理連れて行くから、ディアから彼に安全だと伝えてくれ」
「わかった」
ディアと共に神殿の入り口まで行くとリルル達が待っていてくれた。
「お待たせ」
「そんなに待ってないわ。外は安全、スレイが神官達を眠らせてくれた」
「スレイ、ありがとうね」
僕はスレイを撫でる。そこにリルルがきて、僕に聞いてきた。
「その人がお姫様?」
「あぁ」
「その子は?」
「一緒に連れていく、フェイに乗せてもらってもいい?」
「いいけど、お姫様は?」
「僕と一緒にスレイに乗る」
「えっ、あたいは?」
「ディルに乗せてもらって、もしもの事があってもリルルなら大丈夫でしょ」
「はぁ、わかったわ。お姫様は前に乗るようにしてね」
こうしてディアと少年と共に僕達は神殿をあとにした。
◆
麓に着いて、僕は少年に声をかける。
「君の名前は?」
「オリバー……、オリバー・カーン」
「貴族なの?」
「うん」
「どうしてここに?」
「知らない人に連れて来られたんだ」
「そうか、家はどこ?」
「ルルミアのカーン領」
「そうか、送り届けていいか、みんなに聞いてみるよ」
全員一致でカーン領に行くことを決めた。
「じゃあ、今日は宿屋まで行こう」
◆
宿屋に着いて、女将に。
「いらっしゃい。あれ、品のある青年と痴女二人じゃない」
(女将さん、昨夜だけで、よくわかりましたね)
「あの、今日は五人でお願いしたいんですけど」
「四人部屋と二人部屋でいいかい?」
「はい、お願いします。それで近くに地図を売っている所ってありますかね?」
「それなら、斜め向かいの店がそうだよ」
「わかりました。ありがとうございます」
その後、僕は「じゃあ、みんな先に四人部屋に行っててね。そこで自己紹介しよう」と皆に伝えた。
◆
「すみません」
「おう、どうした?」
「世界地図ってありますか?」
「世界地図? 巡礼用のしかないぞ」
「そうなんですか」
「どうして世界地図が必要なんだ?」
「ここからルルミア王国へは、どの方角に行けばいいのか分からなくて、世界地図が欲しかったんです」
「ルルミアか、それなら北東の国境から行けるぞ」
「北東ですか……巡礼用の地図を買います」
「銀貨一枚だ」
「わかりました。これでいいですか?」
「おう、毎度あり。これが地図だ。また、来年も来てくれな」
◆
「まず自己紹介しよう。僕はラルフ。よろしくね」
「私はミ――、私はディアです」
「あたいはリルル。ラルフの恋人よ」
「えっ」
ディアは驚く。
「あーしはリーン。ラルフさんの愛人」
「えーーー!」
ディアは目を見開いて、僕を見た。
「リルル、リーン、嘘をつかないでくれ」
「噓から出たまことに今夜しちゃえばいいのよ」
リルルがそう言うと、ディアはしょぼくれる。
「ラルフ……」
「はぁ、ディア、本気にしなくてもいいからね」
「えーっと、俺は……」
「すまない、続けて」
「はい、俺はオリバー・カーンです。父は伯爵やっています」
◆
「リルル。この部屋割りおかしくない? なんでディアとオリバーが二人部屋なんだ?」
「これでいいの! あたい達にとって死活問題だから」
(いやいや、縛られて、ムチとローソクに怯えて眠れない方が問題だから)
「ダメだ。僕とオリバーが二人部屋ね。異論は認めない」
「「えーー」」
(普通に考えて、そうだろ)
「ラルフ、ちょっと廊下までいい?」
ディアに呼ばれたので廊下の片隅へと行く。
「あの二人って、どうなの? ラルフ、何かされてない?」
「あぁ、下着姿でくっついてきたり、おっぱい見せてきたりする変態なんだよ。あの二人」
「……。ラルフ、触ったりした?」
「あいつら、縄で縛って、ムチやローソクを垂らしてくるから、逃げまくってる」
「……。ローソクとかやられたの?」
「いや、やられてない。暴力ふるう奴や強姦魔を返り討ちにしていた。その様子は見ている」
「そうなのね。負けていられない」
「負けていられないって?」
「いや、あの、その、こっちの話。だから気にしないで」
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