ホテルカクタス/江國香織

『ホテルカクタス』江國香織

集英社文庫、2004年


 この物語の主な登場人物は3人。帽子ときゅうりと数字の2です。何を言っているかよくわからないと思いますが、読んだままを説明しようとすると、なぜか上手く説明できないのです。


 アパート「ホテルカクタス」に、仲の良い3人組が住んでいます。帽子ときゅうりと数字の2は互いの部屋に出入りして、お酒を飲んだりラジオを聴いたりします。休日には一緒に出かけたり、ときには一人物思いにふけることもあります。

 この擬人化の度合いが妙に心地よいのです。例えば、数字の2は「割り切れない事柄が大嫌いな、真面目かつ神経質な男」として描かれます。きゅうりは「まっすぐな青年で、いつも背筋はしゃっきりと伸びて快活」、帽子は「骨董品を売った収入で細々と暮らしている、旅好きで謎めいた御仁」といったように、名は体を表すというべき人物像です。


 そんな3人の生活模様が、連作短編の形で綴られています。1話あたりの文字数は少なく、静物画(アパートの風景)の挿絵も合間って、大人の童話集といった風情です。

 シンプルで洗練された文章の中に、ひとさじの寓意と哲学がある。白昼夢にも似たとらえどころのなさと、言葉にできない充足感を覚えました。何度も読み返したい一作です。

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