NHKラジオ深夜便 絶望名言/頭木弘樹・NHK〈ラジオ深夜便〉制作班
『NHKラジオ深夜便 絶望名言』
頭木弘樹・NHK〈ラジオ深夜便〉制作班
飛鳥新社、2018年
この本のタイトルは『絶望名言』。同名のラジオ番組から生まれたこの対話録では、「希望」ではなく「絶望」を表現した言葉の数々が取り上げられています。「死が救いに思われるほどの絶望をすくいとって言葉にしていく」ことをコンセプトとして、カフカやドストエフスキー、ゲーテ、太宰、芥川、シェイクスピアの名言をもとに対話は進んでいきます。語り手は『絶望名人カフカの人生論』の著者である頭木さんと、NHKアナウンサーの川野さんです。
お二人のやりとりで特に印象的だったのが、「自殺してしまった芥川を「根源を見つめ続けてくれた人」として、その行為を否定しなかった」ことです。以前どこかで読んだのですが、「自殺を禁句にしないことが、本当に自殺防止につながる」そうです。これは逆説的ですが真理だと思います。「死が救いに思われるほどの絶望」すらも受け入れて、お二人は言葉を重ねていきます。
“絶望的な状況では、とことん絶望しきった方がいくらかマシである”。どうあがいても苦しくやりきれない心にこそ、「絶望名言」は寄り添ってくれることでしょう。
著者のひとりである頭木弘樹さんは、20歳で難病を患い、その後13年もの闘病生活を経験しました。頭木さんは病気になったことで、カフカの『変身』(主人公がある日突然芋虫になってしまう話)を、よりリアルな、迫真のドキュメンタリーのように感じたといいます。もうひとりの話者である川野さんも、脳梗塞によって生死の境をさまよった経験を持っています。
番組プロデューサーの根田さんは頭木さんについてこんなことを書いています。
「こうした話がはたしてリスナーのためになるのか? 二人の不安が伝わってくることがあります。しかし、一人の体験、一人の苦しみは、一人だけのものでしょうか? 文豪たちの絶望名言がそうであるように、一人の苦しみを突きつめていくと普遍性を持つものです。この番組はそのプロセスの実践です」(p251-2)
そうした信念から作られたこの番組は、入院病棟や療養中の多くの人々のもとへと届き、そのメッセージを確かに伝えました。番組へ寄せられた好意的な反響の数々が、その功績を物語っています。
つい先日『夏物語』の川上未映子が、頭木さんのインタビュー記事をSNSでシェアしていましたね。記事によると「人々の間に余裕が失われ、あいまいさやグレーゾーンを許容しない世の中になってきた」といいます。相互理解の可能性が損なわれつつある、こうした現状はまさに「絶望」そのものといえるでしょう。
いま世の中に求められているのは、絶望に寄り添う頭木さんのような思想・ことばであり、本書にあるような『絶望名言』なのだと思いました。
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