第85話 無事を願って
火災現場に到着すると、既に話を聞きつけた村の人たちが炎に包まれた一軒の建物を囲むように集まっていました。井戸だけでなく村の中心を流れる川からも離れた場所なので火を消す術は乏しく、自然に鎮火するのを待つしかないように見えました。確かこの家には若い夫婦が住んでいたはずです。けれど周囲を見渡す限りでは夫婦の姿は見えません。ということは中に取り残されているのって……
「ソフィーちゃん! 来てくれたのか!」
私の姿に気付いた村人の一人が声を掛けてくれ、逃げ遅れているのはこの家に住む夫婦でいまのところ怪我人はいないと状況を教えてくれました。
「火の勢いが強すぎて誰も中に入れないんだ。せめて炎が落ち着いてくれたら良いんだが」
「わかりました。他に怪我人はいませんか」
「いまのところはいない。勢いがあまりに酷くて誰も近付けねぇんだ」
「無理をして怪我人が出ては元も子もありません。火勢が落ち着くのを待ちましょう。それより、雪の中ですし皆さんが風邪をひかないか心配です」
火事を聞きつけ急いで駆け付けた人が大半なのでしょう。ろくに防寒もせずに燃え盛る家屋を見守る人が多く見受けられます。私もそんな一人に入るのかもしれません。事実、薄いガウンを羽織っただけで出てきたので北国生まれとはいえ寒さが身に沁みます。それでも防寒具を取りに戻ろうとは思いません。
(――どうか無事でありますように)
衰える気配を見せない火勢を前に私はただ祈ることしか出来ません。姿が見えないだけで家の中には誰もいないことを願うのはみんな同じです。私たち夫婦が無事であることを願い火の勢いが収まるのを待ちました。
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