第79話 薬師は患者の為に

 「……なぁ?」

 重い空気が漂う中、沈黙を破ったのはバートさんでした。私がこの村に着てすぐの頃から付き合いがあり、良き理解者の一人でもあるので彼らに対して思う節があったのでしょう。

 「おまえら、村の入口で馬車が転覆した事故は知ってるよな」

 「あ、ああ。俺たちも手伝ったからよく覚えてるぞ」

 「あの時、嬢ちゃんは怪我人の状態から処置の優先順位を決めたよな。その時の嬢ちゃんの気持ち、わかるか」

 「そりゃ……」

 「全員を助けたい。けどそれが出来ねぇから一人の男を切り捨てた。薬師なのに助けれなかった嬢ちゃんの気持ちが分かるのかっ」

 「…………」

 「嬢ちゃんはてめぇのことを思って薬を出すんだ! なのにその態度はなんだ!」

 「あ、あの。バートさん、そのくらいにしましょう。ね?」

 バートさんは私が言いたいことを代弁してくれています。ただ、少しヒートアップし過ぎている感があり、いつかのエドにしたように宥め役に回る私はみんなの間に入りました。

 「そのくらいにしましょう。私は気にしてませんので」

 「し、しかしよ。こいつらは――」

 「それで、みなさん?」

 「な、なんだよ」

 「薬師は、少なくとも私は患者さんの利になる薬しか出しません。懐を潤わすために不必要な薬まで出すつもりはありません。それでも飲まないと言うのであれば強制はしません。けれど――」

 「なんだよ」

 「その結果、仮に死んでしまったとしても責任は負いません。身勝手な理由で処方を拒否した方へはあとから薬をくれと言われても調薬しません」

 ふて腐れ気味の3人組を前に私はそこまで優しくないと宣言します。まぁ、そんな理由での調薬拒否は禁止されているので実際にはしないけど、この件に関してはそのくらい怒っているんです。

 「どうしますか。薬、飲みますか?」

 「わ、わかったよ。飲むよ」

 「そうですか。ではどうぞ。蛇毒用の解毒薬です」

 渋々と私から薬瓶を受け取る患者の男性はコルク栓を開けて瓶に口を付けました。半ば強引な方法なので本来はこれも禁止事項なのですがこれはここだけの秘密ということで。

 「熱が出たり吐き気を催すような成分は入っていません。もし、発熱や嘔吐の症状が出れば毒の影響が疑われるのですぐに薬局まで来てください」

 男性が薬を飲み切ったところで注意事項を告げる私はバートさんをその場に残し、アリサさんと共に薬局へ戻ることにしました。この3人はきっとこの後バートさんにみっちり絞られるだろうけど、今回の件に懲りて怪我を甘く見ないようになれば良いなと願う私でした。

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