第59話 また会えた②
――ソフィー?
ドアに貼られた貼紙が目に留まったその時でした。背後から聞こえた声に振り返ると、私たちから数メートル離れた場所に師匠の姿がありました。いつもの白衣姿ではなく、手には大きな紙袋を抱えていました。
「し……師匠!」
良かった。また会えた。ちゃんと恩返しが出来る。そう思うと体が勝手に動き出し、私は師匠のもとに駆け寄り抱き着きました。人目なんか気にしない。エドに笑われたって構いません。だってこれが最後になるかもしれないのだから。
「……良かった! また会えたっ」
「ソフィーどうして――ああ。そういう事か」
「すみません。手紙には見せるなって書いてあったのに――」
「し、師匠。エドは悪くないんです! 私が――」
「分かってるよ。遠くからよく来たね。疲れてないかい?」
「俺は大丈夫です」
「それなら良かった。ところで、二人とも宿は決めているのかい?」
「いえ。私は部屋がありますし、エドにはゲストルームを使ってもらおうかと」
「構わないよ。エド君、ちょっと付き合ってくれないかい?」
「え?」
「買い忘れがあったんだ。ソフィー、鍵は持ってるよね」
「は、はい」
「先に戻ってくれるかな。僕はエド君と少し買い物してくるよ。大丈夫。別に彼を怒ったりしないから」
「……はい」
小さく頷く私。師匠のことだから手紙を見せたことでエドを責めたりはしないはず。もしかしたらこうなることは織り込み済みだったのかもしれません。
「ソフィー?」
「あ、いえ。なんでもないです。エド、師匠のことお願いね」
「分かってるよ。それで、ルークさん。なにを買い忘れたんですか」
「実はね……」
全く。二人で話があるならそう言えば良いのに。エドもそうだけど、男の人って嘘つくの下手だよね。
「もう。師匠ったら……」
エドを連れて人ごみの中に消えていく師匠の後ろ姿にため息が出てしまう私。だけど同時に少しだけ寂しさも感じるのは師匠がこの前会った時よりもかなり痩せていたから。
(……あんなに体調が悪そうな師匠、初めて見た)
私の前では無理に笑顔を作っていたけどお世辞にも顔色が良いとはいえず、見るからに病の侵されているのが分かる。やっぱりあの手紙は読まなかったことにした方が良かったのかな。師匠は私がなにも知らずに村で楽しく過ごすことを望み、それが師匠の最期の願いだった――今頃になってそんなことを思ってしまう私は、二人の姿が見えなくなったところでお店の中に入りました。ドアの中央部に貼られた紙の事はあえて見なかったことにしました。
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