第57話 今度は私が

 村を発つ事になったのはそれから2日後。急な話だったにもかかわらず、バートさんは馬車を出してくれ、村長さんをはじめ村の人たちも快く王都行きを許してくれました。

 「それじゃ、アリサさん。留守中のことはよろしくお願いします」

 「ああ。しっかり任された。その、間に合うと良いな」

 「きっと大丈夫ですよ。それに、案外回復してるかもしれませんしね」

 「そうだな。それを祈ろう。エド、ソフィー殿の事を頼むぞ」

 「分かってますよ。それじゃ、行くか?」

 「うん。皆さん、今回は本当にありがとうございますっ。それじゃ行ってきます!」

 見送りに来てくれた村の人たちに一礼して馬車に乗り込む私とエド。今回はいつ戻って来れるか分からないし、なにかあったらいけないとエドも一緒に行く事になりました。

 「ちょっと村を離れるだけなのに見送りに来てくれるなんて。私ってそんなに慕われてたんだね」

 「今頃気付いたのかよ。おまえは村唯一の薬師なんだ。もっと胸張って良いんだぞ」

 「――エド、いま“胸”見て言ったでしょ。悪かったわね。ぺったんこで!」

 「た、たまたまだ! つか自分で言うなよ」

 「う、うるさいっ」

 「あーもう、バートさん。さっさと出しちゃってください」

 相手にするのが面倒と言わんばかりに御者台に座るバートさんへ馬車を出すよう伝えるエド。バートさんはやれやれと首を横に振るも手綱を引いて馬に出発の合図を送ります。その合図でゆっくりと馬が歩き始め、少し時間をおいて馬車も動き始めます。この時間なら明後日の昼にはセント・ジョーズ・ワートに着くかな。

 「バートさん。いつもの事とは言え、馬車の手配ありがとうございます」

 「嬢ちゃんの頼みならお安い御用さ。嬢ちゃんにはだいぶ世話になってるしな」

 「お互い様ですよ。明後日の昼くらいですか?」

 「そうだな。急ぎたい気持ちはわかるが、あんまり急かすと馬に負荷が掛かるからな」

 「無理言って馬車出して貰ってる身ですし、急ぎたい気持ちはありますがゆっくりで良いですよ」

 「ありがとな。エド、しっかり嬢ちゃんの事守るんだぞ」

 「分かってますよ。あ、俺寝るから。ソフィー、なにかあったら起こせよ」

 「え、ちょっと! 寝るってなによ」

 「おやすみー」

 「ちょっと! ほんとに寝るの⁉」

 床にゴロンと仰向けになり目を瞑るエド。馬車の荷台だし、ゴトゴト揺れて寝心地は悪いはずなのに1分経たないうちに寝息を立て始めるエドに呆れてしまう私。昨日は遅くまで薬のストックを作る私の手伝いをしてくれていたからきっと寝不足だっただね。アリサさんも私が留守中の時に備えてなにやら動いていたようだし二人には感謝しかないな。

 「私って、幸せ者だったんですね」

 「ん? どうした急に」

 「村に着てすぐの頃は不安でいっぱいでした。でも、エドが店の手伝いをしてくれて、アリサさんと知り合って。村に人たちとも仲良くなれて、私って幸せ者ですね」

 「――嬢ちゃんよ」

 「なんですか?」

 「俺たちも嬢ちゃんがこの村に来てほんとに良かったと思ってる。俺たちこそ感謝してもしきれない幸せもんだ」

 「そう言って貰えるなら薬師冥利に尽きますね」

 「だからよ。俺たちの分までお師匠さんに親孝行してきてくれよ」

 「バートさん……はい。もちろんです」

 師匠、私はこの村に来て本当に良かったと思ってます。こんな幸せな時間をくれたのはあなたです。今度は私が恩返しをする番です。だから――


 ――だから、待っていてください。

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