第55話 師匠の願い

 親愛なるエドへ


 突然の手紙に驚いているかもしれないね。どうか許してほしい。

 本題に入る前に一つだけ約束して欲しい。この手紙は決してソフィーに見せないで欲しい。


 実は身体の調子が悪くてね。どうやら先は長くないようなんだ。いきなりなんの話だと思っているかもしれないね。それを承知の上で言わせてほしい。


 異変に気付いたのはあの子が王都を旅立ってしばらくしてからだ。いくつか薬を作って飲んでみたが効果はなかったよ。薬師でも直せない病があるんだと改めて実感させられたよ。それに最近は体力も相当落ちてきてね、さすがに長くないなって覚悟を決めたよ。

 そこで君に一つ頼みがある。もし僕に万が一のことがあれば、その時はあの子のことを君に任せたいと思っている。あの子には君が、エドが必要だ。これはあの子の、ソフィアの父親として最初で最後の頼みだ。僕の代わりにあの子を幸せにしてほしい――


 「――だからその時はソフィアのことをよろしく頼む……そうだったんだ」

 「ソフィー?」

 「エド、隠していたのはこのこと?」

 「え? ああ。そうだ。中身が中身だからな。ソフィーに見せるなって書いてあったけどほんとにそれで良いのかって」

 「ソフィー殿、大丈夫か? 無理しなくて良いのだぞ」

 「大丈夫ですよ。エド、この手紙は読まなかったことにするよ」

 「ダメだ。読んで分かっただろ。ルークさんが危ないんだ。すぐ王都に戻るんだ」

 「ねぇ、エド?」

 「なんだよ」

 「師匠はこのことを知られたくなかった。それってこのまま村で頑張れって意味だと思うの」

 「おまえ、それって――」

 「うん」

 王都には戻らないと暗に伝える私にエドはなにか言いたそう。そうだよね。これじゃまるで親不孝者みたいだし、薬師でも私情を優先しなきゃいけない時だってあります。でも師匠が私には秘密にしてほしいと手紙に書いたってことはきっとそう言うことなんだと思います。だったら私はその願いに応えるだけです。

 「エドは私のことを考えてくれてるんだよね。ありがとう。アリサさんも、知ってたけどわざと黙っていたんですよね」

 「すまない。エドから話を聞いたときは悩んだ。だがルーク殿の性格からそれが適切だと思った」

 「余計な負担を掛けちゃいましたね。でも私は大丈夫ですし、師匠が望む通りにします。なので、この手紙は読まなかったことにするね」

 便箋を封筒に戻し、それをエドに返す私は無理に笑顔を作るけど、やっぱりエドは私になにか言いたいみたい。ちょっと一人になりたいかな。

 「すみません。ちょっと部屋に戻ります。エド、お茶美味しかったよ」

 「あ、ああ。なぁ、ソフィー?」

 「私は大丈夫だから。店番よろしくね」

 再び無理に笑顔を作る私はリビングを出るとそのまま自室に籠り、静かに天井を見上げました。


 ……嘘ですよね。師匠。


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