第54話 師匠の手紙

 エドが煎れてくれたお茶は私やアリサさんが煎れるものよりちょっとだけ薄く、すぐに茶葉の量を間違えているなと分かりました。

 「エド、これ薄いよ」

 「慣れてねぇんだから仕方ないだろ」

 「ならこれからは毎日エドにお茶は煎れてもらうか」

 「そうですね。それで、二人とも――」

 「なんだ?」

 「どうしたソフィー殿?」

 「そろそろ本当のこと、話してくれませんか?」

 「「っ⁉」」

 「なにか隠してますよね。なにを隠しているんですか?」

 ティーカップを置く私は顔を引き攣らせる二人。その様子からやっぱりなにか隠しているのだと確信した私は声のトーンは変えずに尋ねました。

 「このところ、二人の様子が変だったので気になっていたんです」

 「い、いや。なにかソフィーに隠してるとか、そんなことないぞ。ですよね。アリサさん?」

 「――エド、やはり話した方が良いんじゃないか」

 「え、でも。あれは……」

 やっぱりなにか隠していたんだね。アリサさんの言葉に戸惑いの表情を見せるエドは出来れば言いたくないといった様子。そこまで言いたくないのなら無理に聞き出す訳にもいかないかな。

 「あ、あの、言いたくないなら言わなくても良いからね?」

 「――ソフィー」

 「なに?」

 「おまえは王都に帰れ」


 …………え?


 「ソフィー、おまえは王都に帰ってルークさんの傍にいた方が良い」

 「ね、ねぇ。急にどうしたの。そんなに言うの嫌だった? なら謝るよ。ごめんなさい」

 「そんなんじゃねぇよ。ただ、おまえは王都に戻った方が良いと思ったんだ」

 「だからなんでよ!」

 思わず声を荒げてしまう私。意味が分かんないよ。なんでそんなこと言うのよ。私、そんなに嫌われることしたの? 

 「なんで王都に帰れとか言うのよ! 一人前の薬師になる為にこの村に来たのに、私ってそんなに使えないの⁉」

 「違うっ。そういう意味で言ってるんじゃねぇよ!」

 「だったらなんで――」

 「っ⁉」

 「――なんでそんなこと言うのよ」

 感情を抑えきれずに涙が出る私はまともにエドの顔を見れずに俯いてしまう。楽しいはずのお茶の時間が重苦しい雰囲気になってしまいました。

 「……私って、そんなに邪魔なの?」

 「――ソフィー殿」

 「……なんですか。アリサさんも同じこと思ってるんですか」

 「エドが王都に帰れと言ったのは理由があるんだ」

 「理由?」

 「ああ。エド、アレを持って来てくれないか?」

 「え、でもアレは……」

 「こうなったらすべて話した方が良いだろう」

 二人そろってな何を言ってるんだろう。間違いなく何かを隠しているのはわかるけど、それと私を王都に戻したい理由のどこに接点があるんだろう。私には分からないけど、アリサさんのどこか決意じみた口調にエドは渋々頷き、その“何か”を取りにリビングを出て行きました。

 「ソフィー殿。エドの言い方は悪かったが、アタシもエドもソフィー殿を村から追い出したい訳じゃないんだ」

 「……はい」

 「ただ、ソフィー殿とルーク殿は一緒に過ごした方が良いと思ったんだ」

 「今更どうしてそう思ったんですか」

 「それはエドに――持ってきたか?」

 「ソフィー、これを読め」

 「なにこれ」

 エドが私の前に差し出したのは一通の手紙。私宛の手紙ではなく、宛名として書かれているのはエドの名前でした。

 「ルークさんが俺宛に書いた手紙だ。おまえが王都に行った時に預かってきてくれたやつだ」

 「読んで良いの?」

 「ああ。読めば理由がわかる」

 「う、うん」

 他人の手紙を読むのは抵抗があります。でもエドはこれを私に押し付けるように渡すことで読むように促します。私は恐る恐る封筒から便箋を取り出し、エドたちの顔色を窺うように慎重に文面に目をやりました。

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