第52話 真っ当な薬師

 翌日。ウチに押し入った男性は身体を拘束されたまま馬車でセント・ジョーズ・ワ―トまで運ぶことになりました。

 数日掛けてセント・ジョーズ・ワートへ移送された男性は城門の前で衛兵に引き渡され、薬物中毒者として取り調べを受けることになりました。その結果、やはり違法な薬の取引が行われていた実態が明らかになり、薬師協会による緊急の調査が実施されることになりました。

 調査の対象は彼の証言を元にセント・ジョーズ・ワート周辺にある薬局と決定され、当然ながらウチも調査対象になりました。協会の査察官が来た時にはさすがに驚きましたが、査察の結果は問題なしと当然の裁定を貰いました。自分で言う事でもないですが、私は薬師として正しい事をしてきた自信があります。これで問題があると言うなら、協会が隠蔽しようとした試験結果を暴露してやるところでした。

 ただ、すべての発端となった薬師は行方不明。どうやら薬師協会が調査に乗り出したことを察知して逃亡を図ったようです。

 「調査が来る前に逃げるなんて勘が良いな」

 「悪人ってそういうものじゃない? まぁ、これを機に潰せなかったのは残念だけど」

 「潰すとはソフィー殿にしては言葉が乱暴だな」

 「知識を悪用して私欲を肥やしたり誰かを不幸にするために薬を作るのなら、私は絶対に許しません」

 そう。薬は病気や怪我をして苦しむ人のためにあり、薬師は彼らのために存在するんです。どんな理由があろうとも薬師が薬で誰かを苦しませることは許されません。

 (私は絶対、道を外れない。真っ当な薬師であり続けよう)

 決してあくどいことをしようとは思ってません。けれど、裏社会と繋がっている薬師がすぐ近くにいた事実であり、私にも身近なことなんだと実感させられた出来事でした。


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