第43話 失われた40年


2024年現在

全財産328兆1000億円

年間配当金7兆2000億円

現金7兆2000億円






「日本株はバブルだ」


「もうすぐバブルは崩壊する」




次第に、日本株への投資は馬鹿にされるようになった。



今までの株価と比較して何倍にも上昇してしまったからだ。




「割安だから買われていた。だが割安ではなくなった現在、日本株を買う理由が無い。あとは落ちるだけ」



経済評論家やアナリストは日本株がバブルであることを力説した。






だが、俺はそうは思わなかった。


40年前の日本。あれが本当のバブルだ。人々が浮かれ、借金をして株と不動産を買い、利益が出ていない企業の株までもが上がっていく。



それが『バブル』だ。



今は違う。企業の利益に株価が追いついたに過ぎない。



しかも、俺が想像した本格的な"副作用"はこれからだ。






「俺によるM&Sデバイスばらまき案件」が始まって3年目に突入した。



この年で日本人のM&Sデバイス普及率は100%を達成する見込みだ。





最近、テレビやインターネットで「貧困」というワードをほとんど見かけなくなった。デモ活動も気がついたら無くなっていた。



なぜか?



M&Sデバイスがそれら全てを解決したからだ。



人々はすべからく労働から解放され、それなりの収入を得ることになった。さらに今まで貧困によって消費活動を制限されてきた人々が、お金を使い始めたのだ。



日本人口のおそよ25%に相当する3000万人が一斉に消費行動を始める。この意味がわかるだろうか?



今まで行けなかった旅行に、テーマパークに、映画館に、食事に。今まで買えなかった家、車。



3000万人が一斉にこれらを購入する!



およそ追いつかないほどの途轍もない需要が発生した。家も車も土地も建物も、供給が追いつかない!







ここで利益を上げるのは、今や絶好調の日本企業たちだった。



モリタ自動車は10兆円をかけて、インドに生産拠点を移した。四菱不動産は横浜に東京ドーム30個分に相当するテーマパークの建設を発表。



フィットネス事業大手の「REIZAPグループ」は2024年の1年間で店舗数を30→600に急拡大、ステーキチェーンの「焼くなりステーキ」は47都道府県全てに進出する計画を立てた。




日本企業群がこの莫大な需要を見込んで事業投資を決行していった!









9月。日本企業の決算が続々と発表された。



機関投資家やヘッジファンドや海外投資家など、多くの投資家が日本株の下落を予想して、空売りを仕掛けていた。


その空売り比率は驚異の90%!全注文の90%が空売りだったのだ。




結果は、アナリストの予想を遥かに超える増収増益!


どの企業も例年を遥かに上回る純利益を叩き出した。



それに合わせて発表される、自社株買いと増配。東証大号令で本気になった日本企業は強かった。



決算結果を受けて、いくつもの銘柄がストップ高を記録。ここで苦しい思いをしていたのが、空売りを仕掛けた投資家だった。




空売りは下がる方にかけて投資をする。だから株価が上がったら"どこかで買い戻さなくてはならない"。




どういうことか?



例えば、現在100円の株を人から借り、将来80円になったときに100円の価値のまま80円で返済する。100円を借りているのに返す金額は80円で良いのだ。だから差額の20円が儲けになる。



しかし、100円が150円になったらどうだろう?100円を借りていたのに、150円払って返済しなければならない。差額の50円を失うことになる。



だから空売りをしたら、株の上昇下落に関わらず、「買い戻し(=返済)」が待っているのだ。







好調な決算を受けて、上昇していた日本株はさらに株価を上昇させた。



空売り仕掛けていた投資家は損失を拡大させないため、損切りを開始。高くなったところでどんどん買い戻していく。



空売り投資家が買い戻せば、「買い圧力」となり、それは同時に株価の「上昇圧力」になる。



上昇したところで資金の限界に達した空売り投資家がまた買い戻す。それが買い圧力となって株はいっそう上昇する。




まさに、ショートスクイズだ。



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ショートスクイズとは?


証券価格が急騰し、空売り筋の多くが損失を限定するためにショートカバー(買い戻し)に入るときに起こる現象で、株価がさらに跳ね上がること。踏み上げ相場によって、まだショートしたままの売り方の損がさらに膨らむことになる。


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空売り投資家が多ければ多いほど、株価は急騰する。もはや日本株を売る人は誰もいなくなった。



しかし、それでも株価に割高感は無かった。なぜなら日本企業はその株価に見合うだけの利益を上げていたからだ。断じて、バブルでは無かったのだ。






2024年末

日銀の植松総裁はゼロ金利政策を撤廃し、0.5%の金利引き上げを発表した。



せっかく日本景気が上向いてきたのに、水を刺すような政策だった。ここで一時的に日経平均株価は10%下落。




日銀政策金利発表の直後。


時の首相、岸川総理は異例の「消費税引き下げ」を発表。


2025年12月を目処に段階的に税率を引き下げ、2030年までに消費税の完全撤廃を目指すという内容だった。



今まで一度も引き下げられなかった消費税が減税される。保守的で経済音痴な日本の政治家が日本の経済復活の予兆を感知して、ついに重い腰を上げたのだ。




企業、東証、日銀、政府が一致団結して「日本」を本気で立て直そうとしている。少なくとも、俺の目にはそう映った。



当然、消費税減税は国民の消費行動を後押しする。消費が活発になれば企業利益もさらに上がり、それは株価の上昇に繋がっていく。



日銀政策金利発表から一転、日経平均は一気に23%も急上昇した。1日で10%下落し、その後23%上昇するという異常相場となった。



俺の資産も、1日で国家予算並の変動があった。





・世界的な好景気


・世界同時技術革命


・日本企業群の経営改善努力


・東京証券取引所によるPBR是正勧告


・円安による海外投資家からの買い圧力


・貧困層だった人々の消費行動


・空売り筋の踏み上げ


・日本政府による消費税減税




これら全てが株価上昇圧力へと繋がった。



だが日本企業の経営陣も、個人投資家も、経済評論家も、政治家も、日本経済の復活を予測できた人は1人としていなかった。



それもそのはず。



なぜなら誰も日本の好景気を生きていなかったのだから。生まれた瞬間も、思春期も、就職時も、出世しても、結婚しても、子供ができても、日本はずっと不景気だった。



「日本はオワコン」


「日本企業は国際競争力が無い」


「将来はますます暗くなる」


「年金制度は破綻する」


「少子高齢自殺大国」



日本人は、ずっとこう言われ続けてきた。



まるで生まれてから一度も褒められることなく育った子供みたいに、日本人は「誇り」を失っていた。



バブル崩壊から"40年"。

この40年という年月は人々の意識だけでなく、風潮・常識・習慣を書き換えるのに十分な時間だった。



その長いトンネルを今、ようやく抜けた。



日没が早くなった夕方の日本橋を自宅の窓から眺めると、背広を着た会社員の方々が歩いていた。この歩いている一人一人がどん底の日本を支え続けたんだ。



この光景が俺の昔の記憶と重なった。



50年前の古い記憶。

着物を着て、家族で旅行をして、美味しいものを食べて、人々に笑顔が戻った、「振袖景気」



俺も、50年忘れていたよ。




2024年


日本経済 復活。

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