第39話 未来に帰る


2021年現在

全財産193兆5000億円

年間配当金4兆2000億円

現金11兆1000億円




去年購入したビルの家賃と、球団とサッカーチームの興行で毎年500億円を超える収入になってしまった。


これだけでも毎年球団を一つ買ってお釣りが来てしまう。


保有現金も11兆円を超えた。





お金を使っても使っても、増えていく。


万策尽きた俺は新宿に向かった。特に理由はない。ただ、人との接点が欲しかった。




行き着いた場所は、東宝ビル。その横には広場がある。



通称「トー横」



家出した若い中高生がたむろしている。


彼らは集まって何してるかって?


・・・売春だ。




生きるために仕方ないことなのだ。彼らは虐待や、いじめなどで行き場を失った子供達。しかしその子供達にお金を稼ぐ手段やスキルなんて持ち合わせていない。



だから、身体を売る。そしてそれを買うどうしようもないやつもいる。





俺は広場の出入り口にいたある少女に話しかけた。


「何してるの?」



「別に。おじさん、遊び?NSなら1.5、NNなら2でいいよ。どうする?」



(ん?NN?NS?なんのことだ?)



「じゃあNSで、でも1.5じゃなくて、15でいいよ。」



「へ?」



「良いから。とりあえず行こうよ」



「嘘じゃないよね?早く行こっ!」




俺は女の子に連れられて、ホテルに案内された。料金は前払い。2人分を俺が支払って部屋に行く。



「おじさん、悪いんだけど、先に貰える?」



「全然悪くないよ。ほら、15万円。プラス5万円で20万円。どうぞ。」



女の子の眼はお金に釘付けになった。

震えながら手が伸びてきて、ゆっくりとお金を受け取っていく。



「おじさん、今日はサービスするよ!」



「いやいや、良いんだ。やる気になってるところ申し訳ないんだけど、お話だけしようよ。」



「へ?話?」



「うん。話。」



「それだけで、いいの?本当に?」



「ああ、良いんだ。おじさんはね。ずっと1人で孤独だったから、人と話が出来るだけで嬉しいんだよ。変だよね。」



「・・・別に変だとは思わないよ。私だって、同じだもん。お父さんの顔は見たことないし、大好きだったお母さんには『消えちまえ』って言われて私、逃げ出したの」



「なんでそんなこと言われたの?」



「お母さんが私を産んだのはお父さんに振り返ってほしかったから。でも、私がいてもお父さんは帰ってこなかった。お母さんが好きなのはお父さんだけで、私はどうでも良かったの。『あんたなんか産まなきゃ良かった。私がやったら殺人になるから、早く死んでくれない?』って」



「っ・・・思ってたよりもずっと重いね。ごめんね、気分を悪くさせたら謝るよ。」



「おじさんよりマシだよ。その歳で独りぼっちなんでしょ?可哀想。私には仲間がいるから」



「そ、そうか。俺ってそんなに可哀想か。仲間って、トー横の友達?」



「うん。今日のお金はね、リクとケントとミサキとみんなで分けるんだ。でもホストにもちょっと使いたいから少し私の分多くする。」



「良いよ。好きに使って。あ、そういえば名前なんて言うの?」



「ミキだよ。未来に帰るって書いて、未帰。おじさんリピしてくれるの?」



「それって、君のお父さ・・・あ、いや気にしないで。また寂しくなったら来るよ。20でいい?30?」



「アハハ、どこまで出せるの?じゃあ30で(笑)」



「そうだなぁ、1億万円くらいかな?」



「今どき小学生でもそんなこと言わないよ!」





それからしばらく、未帰と名乗る女の子と話した。学校のこと、仲間のこと、将来のこと。





未帰の中身は「空っぽ」だった。



あんなに酷いことをした母親に対しても憎しみは無い。



この現状を打破しようという強い願望も無い。



ただ、"仲間"がいるから生きている。



いや正しくは、「自分が生きることを自分で許している」と言った方がいいか。



少なくとも、未帰は俺とは根本的に違っていた。








それからしばらく経った。


日本の経済は歪ながらも、バブル崩壊後のどん底から抜け出し、明るいニュースが増えてきていた。




・1ドル135円を突破。20年ぶりの円安水準に


・輸出企業の6割が過去最高益を更新!


・四菱商社を筆頭に5大商社のボーナス支給額が年間で1000万円オーバー!


・東証がPBR1倍割れ企業に是正勧告


・モリタ自動車、中国の深電集団を抜いてアジア最大の企業に




経済大国ニッポンの復活を予感させるニュースばかりだ。


10年前に大底で買ったモリタ株は80倍になった。あの時の1000億円は、今や8兆円だ。


モリタ自動車の時価総額は約80兆円。

つまり俺はアジア最大の企業であるモリタ自動車の10%の株式を保有する筆頭株主というわけだ。



・世界最大の企業、時価総額1080兆円のM&S


・世界最大の資源採掘企業、時価総額180兆円のソシエダート・チリ


・南米最大の銀行、時価総額28兆円のバンコ・チリ


・アジア最大の宗教法人、時価総額14兆円の創始学会


・世界最大の外食チェーン、時価総額40兆円のマルドナルド


・世界最大の医療保険会社、時価総額68兆円のユニックスヘルス


・世界最大の飲料メーカー、時価総額32兆円のコクコーラ


・世界最大の貨物輸送企業、時価総額51兆円ユニオンアトランティック


・世界最大の格付け機関、時価総額58兆円のS&Tグローバル


・世界最大の航空会社、時価総額49兆円のガンマ航空





いずれも他の追随を許さない支配的な企業だらけだ。今後も成長し続けるだろう。



現在、俺はこれらの企業の筆頭株主になっている。



だからこれらの企業の利益を1番多く受け取れるのが、俺というわけだ。



「俺」という人間は何も生み出していないが、「俺」が所有する企業が働いて、年間4兆円ものお金を生み出してくる。



その力は"人力100万倍"に相当する。つまり、100万人が汗水垂らして働いた1年分の給与が、俺の年間配当所得と同じというわけだ。



だが、こうも考えることができる。


『俺が配当金を1年貰わなければ、100万人を養うことができる。』






未帰・・・俺の1日分の配当があれば、あの子は一生幸せになるだろうか。




思い出したように、俺は新宿、トー横に向かった。



「あのー、すみません。ミキって女の子知りませんか?」


「ミキ?誰だっけ?トシ知ってる?」


「いやー知らない。」


「あ、、そうですか。えっと、確か、、リクとケント、ミサキっていう友達といるはずなんですが」





「あ、リクね。もしかしてミキってあの子のことかな?」


「え、誰?知ってるの?」


「ほら、あの飛んじゃった子!」


「あー!ちょっと前に!」





「え、飛んじゃった?どういうことですか?」


状況がわからない俺は、胸の奥にざわざわとした予感を感じながら答え合わせをする。




「おじさん、ミキって子を探してるならもう会えないよ。自殺しちゃった。」




そんな簡単に言うなよ。。



頭ではなんとなくわかっていたのに、心で納得する事ができない。



「俺が、殺したんだ。。」



「え?違うよ!違うよ!ミキは自殺。仲間に裏切られてビルの屋上から飛び降りたんだよ。」



「仲間に?裏切られて?ちょっと詳しく教えてくれないかな?」

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