第37話 R > G
2019年現在
全財産143兆4000億円
年間配当金2兆9500億円
現金7兆1000億円
俺は再び、世界一の大富豪の座に返り咲いた。
長者番付第二位のルノワール・アルノー(フランスの高級ブランドLVLHの創業者兼会長)に約4倍の差をつけたぶっちぎりの大富豪だ。
俺1人の資産が、世界の貧困層20億人の合計資産に相当する。
「世界一の金持ちが日本にいる」
このニュースは、バブル崩壊で自信を喪失した日本を活気づけた。
バブル崩壊後、消費税の導入や法人税の引き上げ、金利の引き上げといった「経済を殺す政策」で日本経済は37年間停滞した。明らかな政策ミスだ。
かつてアメリカに次ぐ世界第2位の経済大国だった日本のGDPは、第二次世界魔導大戦の敗戦国であるフランスやドイツ並みに落ち込んだ。
人々は自信を失い、将来への悲観から子供を作らなくなった。給料は下がり、男1人の力では家族を養えなくなった。ついに女性も働きに出るようになった。
そんなボロボロの日本が、ようやく復活の兆しを見せ始めた。
バブル崩壊から37年。日本企業はただ負け続けていたわけではなかった。経営を見直し、利益率を向上させた。堅実な経営を行い、設備投資に余念がなかった。M&SデバイスやクリエイティブAIを真っ先にを導入したのは他でもない。日本企業だった。
日経平均株価は37年間停滞し続けたが、その間、日本企業の年間営業利益は12倍になっていたのだ。
毎年、会社四季報を読んでいた俺は日本企業が頑張っていたことを知っている。だから、再びモリタ株を買った。
日本は生まれ変わる、そんな予感がした。
M&Sとソシエダート・チリの株価が急騰してから間もなくして、モリタとガンマ航空の株が上昇し始めた。
エネルギー危機が解消したことで最も恩恵を受ける業界だからだ。
また、モリタの社長、森田翔はエネルギー危機の際も淡々と設備投資、自動車の開発・生産を続けていた。
その結果、エネルギー危機が去った後に売上を急速に伸ばすことに成功した。僅か1年でエネルギー危機以前の水準まで売上を回復させ、米最大の自動車メーカーであるモードを抜き、自動車業界で世界1位の時価総額に成長させたのだ。
保有株の全てが軒並み上昇し、俺の資産は伸び続けた。
・・・だが、俺は同時に「恐怖」も感じていた。
「俺以外の人間が貧しくなっている」
この時、俺はある著名な経済学者が唱えた理論を思い出した。
『R>Gの法則』だ。
Rは資本収益率、Gは経済成長率。
つまり資産運用によって得られる富は、労働によって得られる富よりも成長が早いということだ。
言い換えれば「裕福な人 (=資産を持っている人) はより裕福になり、労働でしか富を得られない人は相対的にいつまでも裕福になれない」というわけだ。
俺は毎年何もしなくても2兆円以上の配当金を受け取る。しかも毎年20%以上も増配してやってくる。
M&Sやソシエダート・チリ無しにはこの社会は成り立たない。社会が存続する限り、この2社の利益は伸び続ける。そして、そんな企業の株価は常に上がりっぱなし。
だから、この先に待ち受けるのは圧倒的な"格差社会"だ。
俺だけじゃない。昨今のエネルギー危機で暴落した株を購入した投資家は揃って金持ちになった。暴落は富の源泉だからだ。
だが、世界のお金の「価値」は急激には増えない。つまり、誰かが金持ちになったということは、誰かが貧しくなっているということに他ならない。
この場合、俺と一部の投資家のみに富が集中し、それ以外の人間全てが貧しくなっている。
・・・ではお金を刷って、お金の価値を下げれば良いのではないか?そう思うかもしれない。
しかし、お金の価値を下げるということは物の値段が上昇することになり、元々貧しい人々の生活がいっそう苦しくなってしまう。逆に、投資家は現金を別の資産に換えて保有しているため、たとえお金の価値が下がったとしてもほとんど影響が無いのだ。
だからこそ、この格差は自然には"絶対に"埋まらない。
日本政治経済新聞の記事では株式投資家の月の平均消費額は、株式投資をしていない人と比べて平均で3万円も多いという統計結果が出ている。
ここに来て、株式投資家とそれ以外で埋められない格差が生まれようとしていた。
かつて、同盟国間戦争に敗北した日本では皆等しく貧しかった。アメリカの経済支援無しでは復興が難しいほどに。
しかし皮肉にも、アメリカ式の資本主義経済を導入したことで、日本に"格差"が発生した。最初は数百万円の差だったものが、いつのまにか数億円、数千億円、数兆円と加速度的に広がっていった。
俺の資産だって420万円から始まった。そのお金が振袖景気で5000万円に達し、バブル崩壊時の武富土株の空売りで20億円を超え、M&Sの成長と共に1兆円の壁を破り、世界同時技術革命と銅バブルで一気に100兆円を突破した。
歴史を振り返ってみても、こうなることは必然だったのかもしれない。
だが、格差社会の行き着く先は「共倒れ」だ。
人々が貧しくなれば、消費は冷え込み、企業の利益が減少する。企業の利益が減少すれば、投資家の利益が減る。
人々にはある程度お金を持っていてもらわないと俺が困るのだ。
何か方法を考えなければ。
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