第36話 大相場到来

2016年現在

全財産34兆4600億円

年間配当金420億円

現金420億円





M&Sの新魔法『反転エネルギー』のおかげで、世界経済は復活を始めた。



スナップドラゴン9.0を搭載したクリエイティブAIが世界各国の財政や難民の救助、経済の立て直しをサポートしたのだ。





本来、テクノロジーの進歩は世界をより便利に快適にさせる。


エネルギー問題が解決して、世界は本来の姿を取り戻しつつあった。







一方、株式市場では数十年に一度の「大相場」が始まろうとしていた。



実体経済は目に見えて良くなった。第三世代M&Sデバイスが作り出した『もう1人の自分』が代わりに労働を担ってくれたからだ。人々は労働することなく、物を買い、旅行をし、娯楽を堪能していた。


そこで人々はお金を消費していく。さらに魔法とテクノロジーの進歩によって利益率が格段に向上した企業は純利益が跳ね上がる。売れば売るほど儲かってしまう。


すると企業はその利益を株主に還元しようと自社株買いや、配当の増配を行う。そしてそんな企業の株を求めて投資家が株を買う。買われた株価はまるで打ち上げ花火のように上昇を開始する。




俺の持ち株もにわかに復活を始めた。


特に、資源国の株が上がった。ソシエダート・チリと、バンコ・チリだ。



M&Sがスナップドラゴン9.0の生産をスタートさせた2015年の段階では世界中で深刻な半導体不足が発生していた。


エネルギー危機により輸送がストップしてしまい、材料が全く供給されなかったからだ。



急ピッチで生産を始めた世界各国の半導体メーカーは材料となるシリコンウエハや銅を一斉に購入し始めた。その半導体を使って自動車や産業用機械の生産が始まると、銅の消費量は加速した。



その影響でたちまち銅の在庫が減少し、2016年の1年間で銅価格が8倍になるという「銅バブル」が発生。




その恩恵を最も大きく受けたのが、世界の銅の約半分を保有するチリだった。


6年前に購入したソシエダート・チリと、バンコ・チリは共に急騰していった。


俺の目論見は見事に的中したのだ。6年早かったが。




さらに、新しい銅山の開発には極めて時間がかかる。銅山の調査から採掘までにかかる時間はおよそ15年だ。つまり銅が枯渇した今、次に在庫が補充されるのは15年先というわけだ。その間、貴重な銅の価格は上がっていく。



それを見越した投資家が世界最大の銅資源採掘企業のソシエダート・チリの株を買った。当然、その地域で金融業を営むバンコ・チリも上昇する。




その後、ソシエダート・チリはM&Sに次ぐ世界企業の時価総額ランキング第2位に躍り出た。


株価は脅威の140倍。1100億円分投資した俺の持ち株は12兆円に。それだけではない。



銅の市場を完全に独占し、価格決定権を持つソシエダート・チリの現金保有額は100兆円を超えていた。これは世界の企業の中でもダントツの数値だ。



その有り余る現金を使い、2017年に世界最大級の資源開発企業BHQビリトン、同業第3位のリヨティント、さらに2018年にはブラジルの資源開発大手Vare、米最大の産金会社ニューサント、カナダ最大の産金会社マリック・ゴールドを買収。これで、世界の資源開発はソシエダート・チリ1社による独占となった。



買収されたどの企業も時価総額が5兆円を超え、業界を支配するような巨大企業だったのだが、毎年22兆円を稼ぎ出すソシエダート・チリにとってはどれも"安い投資"であった。



これらの企業を買収したことで、銅だけでなく、鉄鉱石や、アルミ、ニッケル、ウラン、ダイヤモンド、金、石油、石炭といったあらゆる資源をソシエダート・チリが牛耳ることになったのだ。




そして、この独占企業の筆頭株主はチリ政府である。チリ政府に忖度して、ソシエダート・チリは異次元の配当を出し続けていた。


その額、年間20兆円!

配当利回りは14%に達していた。


発行済み株式数の61%を保有するチリ政府は毎年12兆円もの政府資金を得る。これを財源にしてインフラや教育の整備を行ったチリは、南米で最も発展する国家となった。





・・・俺もソシエダートチリの大株主の1人だった。


発行済み株式数の約12%を保有していた俺は毎年2.4兆円もの配当金を受け取ることになった。



2.4兆円が『毎年』だ。1年で日本の超大企業を1社丸ごと買えてしまう。その1年後にはさらに大きな会社を買えてしまう。



加えて、俺の永久保有銘柄の創始学会、コクコーラ、マルドナルド、ユニックスヘルス、ユニオンアトランティック、S&Tグローバル、そして主力銘柄であるM&Sの株価も軒並み上昇、配当金も大幅に増配した。




しかし、こんな大金を毎年受け取っておきながら、配当所得課税は0だった。



この背景には"創始学会の圧力"があった。



創始学会は日本で2500万人の信者、国外に3000万人の信者を抱えるアジア最大の宗教団体に発展していた。その「組織票」の影響力たるや凄まじく、日本の政権与党は必ず創始学会と癒着しなければならなかった。内政でも外交でも創始学会の力が必要だったからだ。



そして創始学会の教祖、池早大助の政府への要求はただ一つ。



『配当所得課税を設けるな』



だから消費税や所得税は増やせども、配当所得への課税は絶対にしなかった。




創始学会の大株主である俺は、教祖池早と"ただならぬ関係"であった。



「私が生きている間は配当金に課税はさせませんよ。安心してくださいね。」



「ありがとうございます、先生。」



「お互い様ですから、礼には及びません。その代わり、私が死んだら創始学会を頼みますよ。あなたがコントロールするのです。」



「俺が、ですか?とても、先生のような影響力は私にはございません。私では力不足です。」



「なぁに、心配ございません。教祖は私の息子に引き継がせます。あなたは教祖を裏から操っておけば良い。宗教というのはね、自分を神だと信じて疑わない教祖と、それを商品にする人間がいれば成立するのです。」



本質を突いている。


これが世界で5000万人の信者を抱える宗教のトップの思考だ。



「俺は宗教のことはわかりません。しかし、ビジネスについては多少知っているつもりです。宗教は教祖に、ビジネスは俺に任せてください。」



税金0という恩恵を受けて、俺の資産は指数関数的に増え始めた。

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