第32話 資源国家
2009年時点
全財産25兆2600億円
年間配当金240億円
現金930億円
資産が順調に増えている。
M&S社の8%の株を保有している俺は、M&Sの成長とともに資産が増加する。
2008年末、M&S社の時価総額は200兆円に達した。
この会社がやっていることを考えれば、200兆円という時価総額も安過ぎるくらいだと思う。
ただ、俺には心配事が一つあった。
『材料不足』だ。
クリエイティブAIの心臓部分であるスナップドラゴンver7.0の製造には大量の「銅」を使用する。
そもそも半導体とは電気を良く通す金属などの「導体」と電気をほとんど通さないゴムなどの「絶縁体」との、中間の性質を持つシリコン物質だ。
だから、電気を通す「導体」部分には伝導性の高い銅が使われるというわけだ。
2007年から2009年までの2年間で銅の価格は2倍になった。これは明らかに世界的な需要を受けて製造している、スナップドラゴンver7.0の影響だ。
今後も需要が増えることはあっても減ることはなさそう。しかし、製造の素になる銅の在庫は枯渇しつつあった。
その頃、銅の埋蔵量世界一の南米チリでは政治不安が広がっていた。政府の力が弱く、麻薬組織やギャングによる犯罪が横行していたからだ。
その後、民意を受けて極右政権のフェルナンド新大統領が就任すると事態が一変した。
国の政策を一気に転換させたからだ。
世界経済に与えた影響が一番大きかった政策はこれだ。
『外国の資源開発企業による資源採掘を禁止し、開発事業は国営企業1社による独占とする』
極右政権の誕生によって、株式市場は急落した。
特に新興国の株式が売られた。政府の介入によって、予期せぬ事が起こるかもしれないという懸念が生まれたからだ。株式市場というのは「先行き不透明」を極度に嫌う傾向がある。
だが、俺はこれを絶好のチャンスと見た。
・銅の需要は上がる一方
・世界の銅の産出の大部分がチリに依存
・その銅の開発・採掘は1社が独占支配
さらに、銅山の調査から採掘までにかかる時間はおよそ15年と極めて長期に及ぶ。
銅が枯渇しても次に在庫が補充されるまで15年もの年月がかかってしまうのだ。その間、銅価格は上がり続けるだろう。今の10倍の価格で取引されていてもおかしくない。だから今後数十年と銅不足が続くと予想してるんだ。
つまり、俺の思考回路はこうだ。
スナップドラゴンver7.0の需要増加
↓
銅資源の需要増加
↓
銅資源の価格高騰
↓
銅資源開発企業が儲かる
↓
銅資源開発企業の株が上がる
俺はすぐさま取引所に向かった。
①ソシエダート・デルタ・ギリカ・エ・デ・チリ
チリ最大の国営資源開発会社だ。
銅、ニッケル、リチウムの他、工業用化学品の生産、製造、輸出、商品化を手掛けている。
超高配当銘柄としても知られ、その配当利回りは12%を超える!
②バンコ・チリ
チリ最大の商業銀行。
主に定期預金や普通預金、貯蓄口座、クレジット事業、消費者のための信用枠、輸出金融、投資信託や株式、資産管理、割賦信用上のコンサルティングサービスを含む商業銀行および金融サービスを提供する。
国益を重視する極右政権が誕生したならば、国の経済も潤う。手数料や利息が利益の根源である銀行は、最も経済発展の影響を受けやすい。
俺は、ソシエダート・チリに300億円、バンコ・チリに100億円分投資した。
今の俺の資産規模で購入してしまうと、相場を一気に上げかねない。相場操作になってしまわないように、10億円ずつ段階的に投資した。
そして、銅資源と同様、電力を作るのに欠かせない資源は石油と石炭だ。
俺は上記の2銘柄に加えて、アメリカのスーパーメジャー「エクサンモービル」に300億円投資した。
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