第33話 エネルギー危機



2011年時点

全財産39兆2600億円

年間配当金315億円

現金960億円





ソシエダート・チリはその後全く上がらなかったし、バンコ・チリは微増だった。



その間、M&Sの時価総額は1.5倍に上昇。いつまでもM&S社独り勝ちの時代が続いていた。



全世界株式の過去10年の平均リターンは6.8%。

一方M&Sは38%。


つまりM&Sは世界平均の5倍以上の速度で成長を続ける化け物企業というわけだ。






しかし新興国の時代が来るという俺の読みは間違いだったか?


それなのに銅価格は上がり続けている。なのに何故、ソシエダート・チリの株価は上がらないんだ?



だが俺はこの疑問に一つの答えを出していた。


『オペレーティングレバレッジ』だ


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オペレーティングレバレッジとは?


固定費をテコにした利益の増大効果のこと。


売上11億円、経費10億円だと利益は1億円になる。


しかし、経費が10億円のまま、売上が2億円増えるだけで利益は3億円になる。売上はたったの2億円しか上がっていないのにも関わらず、利益は3倍に上昇した。これがオペレーティングレバレッジの効果だ。


採掘コストが高いほど、この効果は大きくなる。


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ソシエダート・チリは採掘コストが他の資源開発会社と比べても高い。だから利益が出にくい構造になっている。しかし、ひとたび利益が出てしまえばその後は青天井だ。



たとえ株価が上がらなくとも、高い配当を貰いながらじっくりを待てばいい。



俺は呑気にそんなことを考えていた。






そんな時、あるニュースが飛び込んできた。


『電力会社が来月から値上げ。関東地域は電気料金が1.8倍に。』



その週、立て続けに悪いニュースが続いた。



『ガソリン価格、全国で一律値上げ。レギュラーガソリン価格は230円と過去最高に。』



翌週、政府がガソリンと電力に補助金を出すことを約束した。同時に、夏場と冬場に全国的な計画停電を行うことも示唆した。




「・・・やっぱり」


俺は独り言を呟いていた。


それにしても事なかれ主義で怠慢な日本政府が、こんなにも早く行動するとは。これは予想外だった。





さらに、翌月。


M&S社CEOのアレックスが緊急会見を開いた。


「現行のスナップドラゴンver8.0を一時的にグレードダウンします。また、現在開発中のスナップドラゴンver9.0の研究を一時停止します。世界的なエネルギー不足解消のため、M&Sは代替エネルギーの開発を進めています。」



その後、追い打ちをかけるように悪いニュースが流れ始めた。


「食料品の値段が高騰。オリーブオイルや牛乳は1年で3倍に値上げ予定」


「新車の納車待ちが深刻。モリタ自動車の新型サンドクルーザーは納車まで5年待ちの模様」


「航空機各社は減便を発表」


「物流問題が深刻化。宅配料金は約2.2倍に値上げされるも、企業は赤字」



日本だけでなく、世界の経済も麻痺し始めた。



それから3年間、株式市場は下げ続けた。


最終的にNYダウは高値から-68%、日経平均は-72%、全世界株は-63%と記録的な大暴落を引き起こした。



俺が新規で購入したエクサンモービルを除いて。

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