第31話 世界同時技術革命


2008年時点

全財産21兆230億円

年間配当金213億円

現金810億円



この年、俺は世界一の大富豪になってしまった。

まぁ、株式の資産評価額なんだけどな。



この状況はブラック企業で消耗していた俺が最も憧れていた"FIRE"だ。


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FIREとは


経済的自立(Financial Independence)と早期退職(Retire Early)という二つの言葉の頭文字から作られた言葉。若いうちにリタイア後の生活費を補えるような貯蓄をして、資産運用による収益を得ながら経済的自立を目指す。


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だが、別にFIREなんかしなくても、この社会では俺の1番の目標は達成されつつあった。





「人類は、労働から解放された」



第三世代M&Sデバイスだけの力ではない。完全独立型のクリエイティブAIのおかげだ。




サービス革命が始まった。

店員のほとんどはクリエイティブAIに置き換わった。

ミスをしない。辞めない。研修の必要が無い。気分の浮き沈みが無い。そんな完璧なAI店員が、24時間365日働き続ける。




流通革命が始まった。

完全自動運転が実用化され、トラック輸送、貨物輸送、航空輸送、船舶輸送が無人で行えるようになった。さらにドローン配達が実用化され、注文したその日のうちに配達が可能に。




医療・介護革命が始まった。

一部の魔導士だけが使用できていた、高度魔導医療がどこの医療機関でも受けられるようになった。人々の寿命が大幅に伸びるだけではなく、寝たきりの人間が自らの脚で立ち上がり、食事をし、生活を送ることが可能になった。




他にも、司法、政治、建設、教育、看護、工学、コンサルティング、家電、エンターテイメント、ゲーム、金融



ありとあらゆる分野・業界にクリエイティブAIが技術革新を引き起こした。



この現象が全世界で同時多発的に起こったのだ!





人類の代わりにAIが思考してくれる。

人類の代わりにAIが作業してくれる。




人類にようやく、時間と経済的な「余裕」が生まれ始めた。



余裕が生まれた人類は、「暇」になった。



暇になった人類は、「交流」を始めた。



交流を始めた人類は、新しい「文化」を作った。






たった一つの企業が、たった一つの製品で、たったの2年で、世界の文化を一瞬にして変えてしまった。



素晴らしい。



だが、俺は同時に違和感も感じていた。



何か、歪み《ひずみ》が生じていないか?

ここまで大きく変わったら、反動があるんじゃないか?



「そう思わないか?俺。」



『ああ。全く同意見だ。』



「確かにアレックスが作ったこの技術は凄い。凄すぎるからこそ、何か問題があるだろ?」



『問題とは?』



「お前の動力源は?」



『電力だ。』



「その電力はどうやって賄っている?」



『世界中で発電された電力だ。』



「第一世代M&Sデバイスと、第三世代M&Sデバイスの必要電力量は何倍違うんだ?」



『およそ、420万倍』



「なぁ、これでわかるだろ?」



『電力とエネルギーと資源が不足する。人類が進化する毎に。』



「そうだよな。世界同時技術革命が起きた今、唯一何も変わっていないものがある。」



『エネルギーと電力だ。』



「そうだ。今でも電力を作るために、原子力や火力発電所でタービンを回して作っている。火力発電では、何を燃やしてタービンを回してるんだ?」



『主に、石炭だ。』



「これからは、資源の時代がやって来そうだな。」



『ああ。投資先は決まってるんだよな?』



「もちろんだ。」

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