第30話 新製品
2005年時点
全財産14兆7000億円
年間配当金160億円
現金700億円
毎年、M&Sは大幅に増配を発表してくれるおかげで俺の現金もみるみる増えてきた。
増える配当金で全世界株式ETFと、米国超長期国債ETFをコツコツ買っていく。その2つのETFも毎年分配金を出してくれる。そのお金でまた買う。
お金が、加速しながら増えていく・・・!
増え続けていく資産を見てニヤニヤしていたが、ちょっと退屈に感じる日々が続いていた。
毎年欠かさず見ていたM&Sの決算も、最近は決算資料をパラっと見るだけになってしまった。
1人映画館、1人カラオケ、1人ジム、1人焼肉を堪能する毎日だった。
忘れた頃にアレックスから連絡が来た。内心、ちょっと嬉しかった。
『ハロー、オーナー』
「やぁアレックス。久しぶり。元気だったか?」
『もちろん元気よ。今週の決算説明会、絶対来てほしいの!プライベートジェット手配するから!』
「わかった。アメリカ観光ついでに見にいくよ。」
『あなたに会うのを楽しみにしてるわ!』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
M&S年次決算
売上高 12兆9500億円
営業利益 4兆2300億円
配当 800円→1200円に増配
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
相変わらず素晴らしい決算だ。
でも、何か続きがあるんだろ?アレックス。
『皆さん、今日は20年ぶりの発表があります!』
会場がざわついた。
良いぞ、この感じ。ワクワクするぜ。
『最新型のスナップドラゴンver7.0を搭載した『第三世代M&Sデバイス』です!』
「そこで何やってるの?アレックス。」
アレックスの横から、もう1人のアレックスが出てきた。なんだろう?ホログラムだろうか?
『ごめんなさい、アレックス。私、勝手に発表しちゃった。』
「良いのよアレックス。あなたは、"私"なんだから。」
『そうね!みんなー!自己紹介させて!私は本物のアレックスから作られたもう1人のアレックス!ホログラムじゃなくて、実体のあるアレックスの"分身"よ!』
ざわついていた会場が静まり返った。目の前で起きている現実が理解できなかったのだ。
『安心して!私に命は無いの。人間と全く見分けがつかないようにデザインされた、人工知能だから。私の身体はスナップドラゴンver7.0が動かしているのよ。』
『あ、そうそう、第三世代M&Sデバイスの本領はここからよ。私は完全自立型クリエイティブAIなの。1995年に登場したジェネラティブAIがさらに進化したわ。私は自分で考えて、自分で行動するの。決算説明会で"私"を披露するのも、AIの私が考えたアイデアなんだ。』
時代があまりにも先に進みすぎていた。ついに、ここまで来たか。
「ここからは、私、オリジナルのアレックスが説明するわ。第三世代M&Sデバイスのテーマは『自分自身』。あなたを支える、もう1人のあなた。」
「あなたには、どんなことも相談できる人がいる?苦しい時も、辛い時も、どんな時だってあなたの味方でいてくれる人はいる?いる人は幸せ。大切にしてね。第三世代M&Sデバイスは、どこでも、いつでも、何度でも、あなたの味方でいてくれる。」
「会社に行きたくない?学校に行きたくない?そんな時はもう1人のあなたに相談してみて。あなたの代わりに行ってくれるよ。辛い時はもう1人のあなたに頼ってみて。"あなたはもう、1人じゃない"」
会場から拍手が巻き起こった。
思わず、俺も立ち上がって拍手していた。
スタンディングオベーションだ。
第一世代M&Sデバイスは言語の壁を越えた。
第二世代M&Sデバイスは他人の壁を越えた。
第三世代M&Sデバイスは、"自分"という壁を越えようとしているのか。
俺は理解が追いつかないまま、決算説明会が終了した。
帰ろうとした時、久しぶりに直接アレックスと話した。
「ハロー、オーナー。来てくれたんだ。良いタイミングね。」
「あぁ。呼んでくれてありがとう。本当に凄いものを見せてもらったよ。」
「??」
ちょっと考えてから、アレックスは何か合点のいったような顔で話し始めた。
「私、別にあなたを呼んでないわ。きっと、AIのアレックスが気を利かせてくれたのね。」
「・・・なんということだ。じゃああの時の電話は、"もう1人のアレックス"だったのか!まんまと騙されたよ。」
「騙してなんかいないわ。私もあなたが来てくれて本当に嬉しい。自慢の新製品の初披露だったから!」
「ひょっとして、もう1人の"アレックス"は、俺のために呼んだんじゃなくて、君のために俺を呼んだのか?」
「きっとそうね。"アレックス"は常にオリジナルのことだけを考えてくれるから。」
その言葉で、この製品のことをちょっと理解できた。
「いつも優しい商品を作るよなアレックスは。」
「ケビンと約束したからね。1973年の実験の失敗は繰り返さないって。」
「でも、そんなこと可能なのか?」
「魔法はテクノロジーを進化させるけど、そのテクノロジーで魔法を制御するの。大丈夫、きっとできるわ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます