第29話 オールシーズンズ戦略


2002年時点

全財産9兆9500億円

年間配当金132億円

手元現金430億円







俺が元にいた世界で「ヘッジファンドの帝王」と呼ばれる伝説の投資家がいる。



彼が推奨する個人投資家向けのポートフォリオ(=投資の比率のこと)を思い出した。



その内訳は以下の通りだ。


株式、米国債、金の現物、原油、穀物



細かいところは忘れてしまったが、債券の割合が高く、続いて株式→金→コモディティと続いていく。




このポートフォリオの1番の特徴は『下落に強い』ということだ。



NYダウが30%以上も値を下げた2008年のリーマンショックでも、たったの-4%で抑えたのである。




それだけ、このポートフォリオが強固だということだ。





しかし、俺の考えは少し違う。

このポートフォリオの真髄は「株式と逆の値動きをする資産を持つ」ということだと思う。


株式と逆の値動きをする資産の代表格が『債券』だ。



債券とは、国が発行する国債や、企業が発行する社債などがある。窮地のM&Sがウォーレンバケットから資金を調達した手段も社債だった。


国や企業は債券を発行して、投資家から資金を集めて、組織を運営していく。


その代わり、投資家に利息をつけてお金を返す。




国や企業が破綻しない限り、利息の返済が滞る事はないので、株式より安全性が高いと言われている。その分、期待リターンは株式の方が高い。だから、通常時には株式が買われ、債券は売られる。


しかし、ひとたび株式が暴落時した時には、安全資産である債券を買う投資家が多いため、債券と株式では逆の値動きをしやすい。







株式と債券というそれぞれ逆の値動きをする資産を持つことがこのポートフォリオの強みなのだが、本質はもう少し奥にある。大事なのは"暴落時"だ。



「株式が値下がりした時には債券が上昇する」



ということは、暴落時、債券を買い向かうのではなく、「値上がりした債券を売って、その資金で値下がりした株式を買い向かう」のだ。



大丈夫。時が経てばいずれ株式は復活する。




株式が復活してきたら、値上がりした株式を売って、値下がりした債券を買う。これで「次の暴落に備える」のだ。




暴落は『必ず起きるもの』と想定して資産配分を決めるのだ。




いつなんどきも買い場がある。


ヘッジファンドの帝王はこのポートフォリオを

「オールシーズンズ戦略」と名付けた。




現在、株式市場は堅調だ。その代わり債券は割安になっている。今こそ、債券を買うチャンスだ。






俺はアメリカ超長期国債ETF、ティッカーシンボルTLTを200億円分購入した。

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