株式投資家・異世界転生

第24話 投資の神様

1992年時点

全財産2158億円

年間配当金14億円

M&Sの決算の翌日、米国に上場している約2800社全ての株が上昇した。

その日1日資金流入額は32兆円！

これは1日の資金流入としては米国株式史上最大の記録である。

俺はあの時の決算が忘れられなかった。

アレックスは本当に上手くやった。

こんなに話題になってるのは投資家の間だけで、相変わらず世間ではM&Sは悪徳企業という印象が根強い。

だから製品の販売先を個人ではなく「企業」に絞った。

そもそもM&Sの技術は、一般人よりも企業が欲しがる。

例えば、人間を模した生成ホログラムを使えば24時間365日働き続ける店員を配置できる。ただでさえ高かったマルドナルドの営業利益率がさらに上がりそうだ。

他にも、重力制御魔法や魔導制御技術を応用すれば完全な自動運転を可能にした空飛ぶ自動車を作ることも可能だ。モードの資金力があればいずれ実現するかもしれない。

特にシナジーが強い通信やゲーム業界には革命が起きるだろう。通信速度が飛躍的に向上して、一度に送れるデータ量が何億倍にも増える。通信世界最大手のBT&TやビジネスコンピュータのWBMは大きな利益に繋がる。

だからアレックスは個人ではなく、企業に目をつけた。

噂や憶測に惑わされる愚かな個人と違って、企業はしっかりと製品の中身を確認する。

俺はM&Sデバイスを初めて使った時に確信したんだ。「この企業は世界を変革する力がある」と。

世界にたった一つの超技術を持った企業を、他の企業が放っておくはずがない。

だから、「ウォーレン・バケット」が手を差し伸べたんだ。

ウォーレンバケットと言えば、投資家の間では知らない人はいない、「投資の神様」だ。この人の影響力は絶大だ。

以前、ウォーレンバケットが自動車業界第3位のモードの株を購入したというニュースが流れた。その年、モードは60%以上の上昇し、その後5年間上昇を続けた。現在モードは世界最大の自動車メーカーに成長した。

ウォーレンバケットは「価値のある企業にだけ投資する」という投資哲学を持っている。この御方が投資した企業なら、価値があるに違いないと思う投資家も多いだろう。

だからウォーレンバケットがM&Sに協力したということは、個人投資家にとって大きな心の安心材料になった。

1992年3月

アメリカ・オクラホマ州・オマハ

ウォーレンバケットが会長を務めるバルクシャーハザウェイの株主に宛てた年次書簡でM&Sの以下のように評価した。

「M&S一社と、その他全ての世界企業。このどちらかにしか投資できないとしたら、私なら迷わずM&Sを選択するだろう。世界企業の今後の利益は、M&Sの製品次第だと言っても過言ではない。私が生きているうちにこのような企業に出会えたことが幸運だ。」

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1992年M&S年次決算

売上高　　1兆4000億円

営業利益　3260億円

売上高と営業利益は予想を大きく上回る決算だった。新製品の『スナップドラゴン』の売れ行きが好調で受注が追いつかない状況だという。

来期のガイダンスでは営業利益が5000億円を超える見込みだと発表した。

株価はさらに上昇し、M&Sの時価総額は10兆円を突破。

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1993年M&S年次決算

売上高　　2兆1500億円

営業利益　7320億円

期待で上がっていた予想をさらに超えてくる神決算だった。不調だったM&Sデバイスの販売台数もここにきて復活し始めた。人々の記憶から、森林火災の悪い印象が薄れてきたからだ。

ウォーレンバケットはM&Sに更なる追加投資を行なった。これが株価の上昇圧力となり、時価総額は30兆円に到達。

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1994年M&S年次決算

売上高　　2兆9500億円

営業利益　1兆1320億円

営業利益率が改善され、さらなる事業投資を計画中だと言う。

この年から、M&Sは配当と自社株買いという二つの株主還元をスタートさせた。

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自社株買いとは？

企業が自ら発行した株を買い戻すこと。自社株買いは、配当と並ぶ株主への還元で、株価の上昇要因になる。

例えば1株100円の株式が10株あったとしよう。合計の価値は1000円（＝時価総額）になる。しかし、株の持ち主が5株買い取ってしまう（＝自社株買い）と、1000円の価値がある株が5株しか無くなる。すると、1株あたりの価値は200円に上昇する。

元々株を100円で買っていた投資家にとって自社株買いは嬉しいニュースなのだ。

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絶望の中で俺が購入したM&Sの株は15億円分。元々持っていた株式と合わせて約300倍に成長した。