第23話 サプライズ発表
1990年現在
全財産102億4000万円
年間配当金12億4000万円
M&Sショック時に購入した5銘柄が順調に株価を上げてきた。
相変わらず、渦中のM&Sは低迷しているが。
分散投資したおかげで、M&Sが下げた分の損失を他の銘柄がカバーしてくれている。資産は全体で見れば前年より増えた。
基本的に、暴落は富の源泉だ。
業績は悪くないのに、他の銘柄の暴落に巻き込まれて引き摺られて下がることがある。
そういう時こそ"買い時"なんだ。
例えば今回購入した5銘柄はM&Sと何も関連が無い。それなのに暴落していた。だからパニックが落ち着けば問題がない企業の株から回復していく。
コクコーラやマルドナルドはショックから僅か1週間で元の株価に戻った。
株価が上がっても売ることはしない。いずれの5銘柄も配当があるからだ。時間をかけて企業の成長を見守り、配当金が増配されるのを待つ。
今は"待つ時"だ。
1年以上かかって、カリフォルニア森林火災の原因が判明した。
カリフォルニア州の送電線の老朽化によるものだった。送電線から発生した火花が乾燥した木々に燃え移り、大規模火災が起きたのだ。
M&Sは無実だった。
しかし、この事件の旬は過ぎていた。
話題は人気芸能人の不倫問題で持ちきりだった。
日本人のほとんどはM&Sは悪徳企業だと思い込んでいるし、アメリカ人ですら事件のことをほとんど忘れてしまっていた。
ただ、M&Sに対する悪い印象だけが残った。
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1989年の年次決算は散々だった。
売上高 1兆123億円
営業利益 -1250億円
当期純利益 -1兆2500億円
この年、M&Sは1兆円を超える特別損失を計上した。
各M&Sステーションの閉鎖費用や、安全性向上のための技術開発、大量の返金対応がM&Sの資金を圧迫した。
また、来期のガイダンスは売上高、営業利益共にアナリストの予想を下回った。
「いつまでこの状況が続くのか」
「早く利益を出せ」
「人員を削減しろ!」
投資家から厳しい追及が続く。
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1990年度年次決算
売上高 4540億円
営業利益 -632億円
当期純利益 -5620億円
前年度より赤字は縮小したものの、売上高の減少に歯止めが効かなくなっている。
決算期のたびに投資家から辛辣な罵詈雑言や、厳しい質問が続き、アレックスCEOは嘔吐と幻覚・幻聴まで起きるように。
決算説明会にて、「もう・・・打つ手が・・・ないんです。」という発言が飛び出し、株主は大混乱。
将来への不透明さから株価はさらに落ち続け、上場来安値を付けた。全盛期には8兆円を超える時価総額だったが、現在は840億円とおよそ1/100にまで減少した。
だが、ここで俺は決意した。持っている現金12億円分全てをM&Sに投資しようと。
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1991年度年次決算
売上高 2250億円
営業利益 -4600億円
通期決算は最悪だった。売上高は2250億円で前年同期比マイナス50%。
失望売りが続き、もう下がらないと思われた株価は見たこともない価格まで落ちた。投資家の誰もが破綻は時間の問題だろうと考えた。
さすがの俺も絶望していた。株価が下がったら買い、下がったら買いを繰り返してきた。だが、買えば買うだけ下がっていく。
「もう、ダメなのか。」
しかし、「来期のガイダンスを発表します」というアレックスCEOの発言が続くと、会場はざわついた。来期が、あるのかと。
「来期の通期売上高は・・・9600億円、さらにこれを下限とし、上方修正を行う予定です」と。
にわかに会場に興奮が渦巻く。
ある株主から「いくら売上が上がっても利益が出ていないのなら意味がない。そしてキャッシュが無い現状でどうやって経営していくのか?」という問いがあった。当然だ。会社はキャッシュ(=現金)が尽きた時、倒産する。あの時の武富土のように。
するとアレックスCEOは「"ある人物"に社債を購入していただきました。その額は9兆円。財務キャッシュフローが大きくプラスになっているのはそのためです。そして投資キャッシュフローは過去最高のマイナス。」
一瞬の静寂が訪れた。
「ここでサプライズ発表です!M&Sの新製品、『スナップドラゴン』です。魔法制御装置を搭載したグラフィックス プロセッシング ユニットで、世界の全てのテクノロジーを20年先にワープさせます。すでに、自動車メーカー最大手のモード、ビジネスコンピュータのWBM、外食産業世界最大手のマルドナルド、その他52社から受注をいただきました!」とアレックスCEOが声を震わせながら語る。
会場から歓声が上がった。
あの時厳しい追及をした投資家も、立ち上がって喜んでいる。
俺はわかるぞ。キツイことも言いたくなるけど、実際は応援してるんだよな。わかるぞ!
ある投資家が質問をした。
「一体誰からそれほどの資金を調達したんですか!?」
全員が気になっていることだった。
するとアレックスCEOはこう答えた。
「ウォーレン・バケット氏です。」
翌日、新聞の見出しには「アレックスCEO涙の決算発表!M&S、起死回生の一手!株価は1日で980%上昇!」と世界的な不況からの復活を期待させる、歴史的な経済ニュースとなった。
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