第16話 M&Sデバイス


1985年

全財産31億4500万円

年間配当金4億4500万円




俺はアメリカに飛んだ。


空港に着いた俺を待ち受けたのは巨大なウィルマートのショッピングモールだった。



その他にも

エルダーバックスのカフェ

ハージーズのチョコレート

コクコーラの炭酸飲料

マルドナルドのハンバーガー




どれもこれも知っているが、規模がとにかくデカい。



天井も高い。人もデカい。




幹線道路は広く、巨大なピックアップトラックが黒煙を上げて走っていく。



「モリタの車、、、なんてアメリカにあるわけないか。」



アメリカ人に"コンパクトカー"は似合わない。

さすが、世界一の経済大国だ。






まず今回の旅における、最大の目的地に向かった。



カリフォルニア州サンフランシスコ・パロアルト


通称"シリコンバレー"



ここはバイオレンス・マジック(VM)の本社があった地域だから、一般人よりも魔導士の数の方が多い。


少し、異様な雰囲気だ。




「ここか。M&S本社ビルは。奇抜だな。。」


真っ白い半球状の建物が宙に浮いている。そして、窓が無かった。



入り口がどこかわからなかったが、近くをうろうろしていると社内のエントランスにテレポートされた。


通りかかった女性に拙い英語で話しかけてみた。



「あ、え、えっと。excuse me??」


「はい、これ。」


女性から、いきなり小さなタブレットのような物を手渡された。


「え?あ、あ、あ、thank you...」


「大丈夫よ。そのまま普通に喋ってみて!」


「あ、あなた日本人ですか?こんなところに日本語話せる人がいて助かりました。実は俺、個人投資家で、会社見学に来たんです。ご迷惑じゃなければ中を見ても良いですか?」


「ええ、もちろん。ただ、私は日本人じゃないわ。生まれも育ちも、アメリカよ。」


「本当に?!日本語がお上手ですね。」


「ええ、よく言われるの。日本語って"sushi"しか知らないんだけど(笑)」


「え?どういうことですか?今だって、喋っていますよね?日本語。」


「私は今、英語を喋ってるの。でもあなたの耳には日本語として聴こえているはず。あなたが手に持っているソレが、我が社の"M&Sデバイス"よ。」




なんという事だ。



思考が止まった。



元の世界にあった『スマートフォン』でも感じたことのない衝撃だった。



言語の自動翻訳が1985年のこの時代に存在するなんて!しかも文字ではなく音声として。


相手の母国語は聴こえず、自分が最もよく知る母国語に翻訳されて、まるで相手が喋っているかのように聴こえてくる。




「これ、どうなってるんですか?!」


「説明するわ。こっち来て。」




M&Sデバイスの紹介映像がホログラムで映し出された。



世界の主要な言語をすべて理解するため、M&Sデバイスには高度な計算処理が必要だった。



その計算処理には極めて処理能力の高い半導体が必要不可欠なのだが、魔法処理を用いて、その技術不足を補った。



魔法×テクノロジーの組み合わせにより、この世の不可能を可能にすることがM&Sデバイスだと言う。




難し過ぎて話の90%は理解できなかったが、とにかく、テクノロジーの未熟さを魔法で補って強化していることは理解できた。



すでに、元の世界の2023年時点の技術力を超えているような気がした。





「す、凄い。。こんな体験、初めてです。」


「うちの製品を褒めてくれてありがとう。嬉しいわ。あ!ごめんなさい。自己紹介忘れていました。私はM&SのCEO、アレックス・ウッドです。」


「あなた、CEOだったんですか!見たところ俺より若く見えるのですが、失礼ですが、、ご年齢は?」


「別に失礼じゃないわ。投資する企業の社長が子供みたいだったらどこか頼りないもの。22歳よ。」


「あー、、、、(言葉がでてこない)」



しまった。大人びて見えたから同年代くらいに見えていた。俺もう、アラフォーなんだよなぁ。



「その反応はちょっと失礼ね。あなた、コミュニケーション苦手でしょ?でもね。あなたみたいな女性と話すのが苦手なナード君にピッタリな機能があるの。デバイスの"自動生成"を押してみて」



おい、今"ナード"って言ったか?ちゃんと聴こえてるぞ。



「あ、はい。」



「22歳でしたか。その歳でCEOを勤め上げるなんてきっと部下からの信頼も厚いことでしょう。」


「聴こえた?あなたが喋らずとも、デバイスが自動的にその場に適した言葉を話してくれるのよ。」



俺は自動生成を切り、

「そうですか。それは"ナード"にピッタリですね。」



アレックスは嫌味のある笑顔で返してきた。



俺はこの素晴らしい商品に興味が出てきた。明らかに世界を変える技術革新だと思えたからだ。このM&Sデバイスの使い方によっては、教育・スポーツ・医療・レジャー・エンターテイメントなどあらゆる分野に応用できる。



「そうだ、俺はあなたにも興味があるんです。アレックス」


眉間に皺を寄せ、恐怖に顔を曇らせながらアレックスはこう続けた。


「あなた、ずっと自動生成機能使い続けた方が良いわよ。差し上げますから。」



「あ、いや、いやいや、違うんだ!投資家として、CEOがどんな人なのか、知りたいんです。M&Sデバイスをどう販売していくのか。CEOのあなたは、きっと10年単位で未来を予想しているんでしょう?その時、M&S社がどういう舵取りをするのか、俺は気になるんです。」



アレックスは不安が取れたように微笑んでくれた。


「良かった。まともそうな投資家さんで。1週間後、我が社の決算説明会があるから是非いらしてみて!その間、アメリカ観光を楽しんでね。そのデバイスは私からのプレゼントです。」


「え、良いんですか!助かります。これで言葉の壁を超えられる。」




若い女性と話したのは何年振りだろうか。


本当はもっといろいろ訊きたかったんだけどな。考えてることを言葉にするのって難しいなぁ。

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