第11話 靴磨きの少年
1981年時点
全財産1億150万円
ついに、俺の資産は大台の1億円を超えた。
だが今年、日銀の吉川新総裁は政策金利を7.25%に引き上げた。新しく総裁になった吉川も、前総裁益田のやり方を踏襲している。
ここまで厳しい金融引き締めは前代未聞だ。もう誰も借金をしたくないと思えるような金利になってきた。
だが、日経平均はそれでも連日上昇を続けていた。売却してしまったモリタや月立、中島屋の株価もさらに上がっている。もうちょっと売るのを我慢すればよかったかな。。少し後悔した。
俺は伸び切った髪を切りに美容室に行った。一応行きつけの美容室だ。要望通りの髪型にしてくれる、感じの良い店長がいるお店だ。
「お客さん、株式投資やってますか?私も友人に勧められて今年やり始めたんですよ!そしたらもう上がっちゃって!!2ヶ月で20%も増えたんです!」
「へぇ、凄いですね。俺は、、投資は怖くてちょっと。。」
「勿体無いですって!すぐ始めましょう!今が人生で1番若い時ですよ!私は借金して、お店のお金も突っ込みました!!」
「そうですか。勇気がありますね。僕は手持ちの現金は少ないし働いていないので、そんなお金貸してくれるところどこにもありませんよ。」
「絶対大丈夫!今は誰でも審査無しで借金できます!」
「え、今って借金するのに審査も無いんですか?」
「はい!誰でも大丈夫です!さ、やりましょ投資!」
俺は帰り道、証券取引所に向かった。
『靴磨きの少年』の話を思い出しながら。
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靴磨きの少年の話とは?
相場が天井に近いことを示すネタとして昔から挙げられる存在の比喩。
普段株を買うことがないような人(この場合は靴を磨く仕事していた少年、もちろん資金力はそれほど高くない)までが投資を始めるという話を指す。
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主婦もサラリーマンもタクシーの運転手も美容室の先生も。普段投資なんて見向きもしない人がニュースを見て株を買い始める。
そもそも株価というのはオークションみたいなものだ。100円の株を101円で買う人がいれば株価は上がる。101円よりも102円で買う人がいればさらに上がる。企業が儲かったら200円出してでも買いたい人がいるだろう?
だが、もしそれ以上で買う人がいなければ?
売りたくなっても200円で買う人がいなければ株価は下がる。最終的に人は損をしてでも値下がりする株を手放したくなってしまう。
先見の明のある人間が初めに株を買う
↓
上がり始めた株を敏感な人が買う
↓
上昇を確認した資金力のある機関投資家が買う
↓
上昇に乗り遅れたくない人が焦って買う
↓
普段投資に関心のない人までもが買う
↓
買う人がいなくなる
こうやって、楽観の中で株価は落ちていくんだ。
俺は証券取引所に行き、創始学会以外のすべての株式を売却した。四菱も八川中央銀行も良い配当を出してくれていたが、今の日本はあまりにも大きな爆弾を抱えている。
その資金で、俺はある賭けに出た。今までで最もリスクの大きな取引だった。
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