第8話 セクターローテーション
1976年時点
全資産2890万円
1976年、日本の景気は絶好調だった。
自動車の販売数が激増したことでガソリン需要が増加。モリタ株に引き摺られる形で、「帝王石油」の株価も上昇。ついに、不動産企業の「四菱」を除いた全ての保有株が大幅上昇を果たした。
さらに家電メーカーの月立が、この年日本初のカラーテレビを新発売。定価は10万円と平均月収の2ヶ月分に相当する超高級品だったがそれでも飛ぶように売れた。
人々はモリタのコンパクトカーに乗って、中島屋で買い物をし、帝王石油のガソリンスタンドで給油して、月立のテレビで一家団欒の時を過ごす。
つい数年前まで戦後不況の真っ只中だったとは思えないほど、日本に活気と陽気が満ち溢れた。
そんな中、俺は次のチャンスを探していた。
人気は移り変わる。
『セクターローテーション』である。
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セクターローテーション
景気の変動にともなって、物色する業種を機動的に変えていく投資戦略のこと。
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常に一つの業種だけが勝ち組であり続けることはない。利益を上げた投資家はお金を引き上げ、次の投資先へとその資金を傾ける。
俺のように、この好景気と株高で儲けた投資家がいるはずだ。その投資家は次に何を考える?
俺なら、"次のモリタ株"を探す。
1977年2月、日銀益田総裁はゼロ金利政策をやめ、6月からの政策金利を0.5%に引き上げることを決めた。
急激なインフレーションを抑え込むための金融引き締め(=利上げ)である。
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利上げとは
各国の中央銀行が実施する政策金利引き上げのこと。 なお、政策金利とは金融政策の目的達成のために設定される短期金利のことだ。 利上げが行われると、企業や個人による新規借り入れは減少する。 資金の減少により購買活動も低下することから、物価も下落傾向となる。
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1977年4月
自動車メーカーモリタの四半期決算が発表された。
売上高、営業利益共に過去最高を更新。金利引き上げに伴う駆け込み需要があったためだ。
俺はここでモリタ株を全株、月立株を50%、中島屋株を50%売却した。
それは良材料が出尽くしたと判断したからだ。これからローン金利が引き上げられ、人々の購入意欲は低下する。過去最高益を更新した今が株価のピークだと判断した。
決算を見て株を買った初心者が最後にババを掴まされる。
『株は、噂で買って事実で売れ』
なんとなく、どこかで聞いたような格言を、俺は思い出した。
俺はこのモリタ株を売って得られた資金を、好景気の中でも全く日の目を浴びていない銘柄に振り向けた。
日本最大の銀行、「八川中央銀行」だ。
そもそも銀行のビジネスモデルは、個人や企業のお金を預かり、それを短期金利で貸し出すことで利鞘を稼いでいる。
だから日銀の利上げは、自動車メーカーのモリタ、家電メーカーの月立、百貨店の中島屋にとっては向かい風だが、八川中央銀行にとっては追い風になる。
その八川中央銀行に、株を売却した資金1800万円を一括投資した。
この年、八川中央銀行株は10%と小幅に上昇した。
1977年を終えた時点での俺の総資産は4400万円に達していた。
1978年
不動産業界と金融業界に変化が起き始めた。
ローン金利の上昇に伴い、土地や住居を現金で一括購入する人が増えてきた。
金利が高い住宅ローンを組むよりも、安い土地を現金一括で購入しようというのだ。
さらに振袖景気で一気に利益を得た企業は、丸の内や銀座、新宿、渋谷の一等地にオフィスを構えた。
これにより、丸の内一帯の土地を所有する四菱の利益が上向き始めた。
企業が利益を得ている限り、その企業から安定して利益を得ることができるようになったのだ。
また、ゼロ金利政策以降、ずっと株価の下落を続けていた八川中央銀行も次第に下値を切り上げていく、緩やかな上昇が始まった。
これにより、俺の全ての保有株が評価額プラスになった。モリタや中島屋の株が上がらなくても、四菱や八川中央銀行の株が俺の資産を下支えしたのだ。
こうやって、いつどんな時も資産を増やしていく。
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