第6話 バイ&ホールド
全財産420万円
「すみません、株式を購入したいのですが。四菱を1900株、月立を3400株、モリタを1100株、帝王石油を900株お願いします。」
「申し訳ございません。購入単位は1000株からとなっております。」
え、1000株単位でしか購入出来ないの?!
最低購入数1000株だと、資金が少ない個人投資家には厳しいな。昔は株式市場も未熟だったんだな。
「四菱を2000株、月立を3000株、モリタを1000株、帝王石油を1000株お願いします。」
約90万円分購入した。
あとは売らないで、待つ!
バイ&ホールド戦略だ!
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バイ&ホールドとは
投資家が証券を購入後、長期に渡り保有し続ける投資戦略の事である。
保有し続けている間、ある程度の価格変動は受け入れる。だが長期的に見れば、経済の成長と共にいつかリターンを得られるだろうという考えに基づいている。
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翌月、日経平均株価マイナス2%
その翌月はマイナス1.5%
その翌月もマイナス1.6%
保有している銘柄は日経平均ほど下げていないみたいだが、含み損になってしまった。
それでも、売らない。
購入から3ヶ月経過したので、また同量購入した。株価が下がった時に購入したので、購入金額は安くなり、約85万円だった。
買ってから3ヶ月後の1973年10月。株式市場にある変化があった。
保有している家電メーカー「月立」が上がり始めたのだ。前月比+15%。
しかし、不動産会社「四菱」と自動車の「モリタ」そして「帝王石油」の株価は横ばいだった。
結局、投資を始めた1973年は全財産419万円(株式184万円、現金235万円)で終えた。
〜翌年〜
1974年1月
ラジオや新聞では相変わらず田口政権の批判と、不景気のニュースが流れていた。
だが、初詣の参拝客の様子を窓から眺めていた俺は、人々の服装が変化しているのを感じた。
人は高級な着物に、ブランド物のバッグを身につけている。
駐車場に停まっている車のナンバープレートを見ると、栃木や山梨、大阪や山口といった遠方の車が多く見られた。
去年の閑散とした日本橋とは雰囲気が一変していた。
俺は取引所が開くのを待ち、すぐさま"ある株"を購入した。
百貨店最大手「中島屋」だ。
生活防衛資金24万を除いた全財産をこの銘柄購入に充てた。
4月、中島屋の四半期決算が発表された。
企業は1年に4回、3ヶ月ごとの進捗を発表する。これで企業の直近の業績が判るのだ。
前年同期比
売上 +218%
営業利益 +96%
中島屋は売上、営業利益共に前年比同期比で大幅に躍進した!
読み通り。
やはり人々は、高級百貨店でお金を使っていたのだ。
不景気の時、普通の人は衣服、外食、旅行や娯楽などの消費は控える。
そのため、高級百貨店の中島屋は不況の煽りを受けて株が投げ売りされていた。
だが、田口首相が行った5万円の現金給付が人々の意識を大きく変えた。
今までできなかった、贅沢を。
年の初めくらい、家族で旅行を。
着物を着て、美味しい物を食べて、思い出を作ろう。
まるで、これまでの不況に反発するように人々はお金を使い始めた。
その影響が真っ先に現れ始めたのが、どこよりも品揃えが良く、贅沢な気分を味わえる「中島屋」だったのだ。
この年、日経平均株価は+28.5%という驚異的な復活を遂げた。
特に、俺の保有株の中島屋は+286%、月立は+190%と急騰した。
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