第4話 株は悲観の中で買え


 全財産420万円



 さてと、この世界の歴史もわかったことだし、俺の全財産420万円を使って生き抜く方法を考えるか!


 まずは、俺の武器を明確にしよう。



 俺は投資家だ。短期で売買を繰り返すようなトレーダーではない。


経済の動きを見て、未来を予測して、成長する企業に投資する。このストーリーを考える「想像力」が、俺の武器だ。


 歴史は違えども、人類や経済がどのように発展・成長してきたのかを知っている。



 この世界のリーダーがアメリカならば、この先も資本主義が続くだろう。資本主義が続く限り、お金を持つ者に力が集中する。


 今持っている俺の武器でお金を得るには、、、



『株式投資』



 これしかない。





 こうと決まれば、住む場所を探さないと。


 この世界にスマホは無い。スマホが無いからネット証券も当然無い。だから株式投資を始めるには証券会社や取引所に行って直接株式を購入する必要がある。



 だから俺は、東京証券取引所から徒歩5分のところのアパートを借りた。



 家賃は月5000円。食費や水道電気代を入れても1ヶ月1万円もあれば生きていけるだろう。


 2年分の生活防衛資金、つまり24万円を残して、残りの現金全てを投資に回す。




 1973年4月、俺の異世界株式投資生活がスタートした。






 まずは日経平均を確認するために日本経済新聞の項目を探す。



 ・・・現在は1055円か。


 ていうか、株価チャート無いのかよ。。。


 その代わり1960年からの日経平均株価が載っているな。


1960年 420円

1961年 392円

1962年 393円

1963年 481円

1964年 694円

1965年 891円

1966年 957円

1967年 851円

1968年 912円

1970年 1120円

1971年 2359円

1972年 1680円

1973年 1055円



え、今、下がってるの?

何が起きてるんだ?



「日銀益田総裁、ゼロ金利政策を発表。田口首相の意向か。」


と書いてあった。



1960年代の戦後復興成長期が終わり、復興特需が無くなった日本に、どうやらその反動が起きているようだ。



全国的に失業率が増加し、上がり過ぎていた賃金も減少に転じた。物価も下がり始め、東京都以外の地価は軒並み下落。



日本は戦後最大の不況の真っ只中であった。



ここで、田口首相は日銀総裁に金融緩和を命じた。


さらに全国民に一律5万円の給付を断続的に行うと発表。


しかし、それでも日経平均は下がり続けた。

国民は政策の失敗だと批判し、内閣支持率はついに20%を割り込んだ。






ここで俺は考えた。

現在は絶好のチャンスだと。ただし、このチャンスは一つ間違えたら大きな痛手を負うリスクが高い。



まず、田口首相が行なっている金融緩和とは、緊急で金利を0に引き下げることだ。金利がゼロになれば企業は銀行からお金を借りやすくなる。



銀行からお金を借りた企業は設備投資をしやすくなり、経済が回り始める。


さらに政府から全国民に平均賃金の2ヶ月分に相当する5万円が給付される。人々はそのお金を消費に回し、企業は利益を得る。その利益は人々に給料として還元され、好景気になっていく。




・・・のはずだった。



事実、株価はそれでも下がり続けていた。



原因はわからない。だが俺は、夜の日本橋が閑散としている様子を窓から見て、こう思った。



人々は不景気に"恐怖"していると。



投資家は「万策尽きた」という失望で保有株を投げ売りし、人々は未だ記憶に新しい『戦争の頃の貧しさと恐怖』を思い出しているのではないか?



企業の業績は下向き、明日失業するかもしれない恐怖から従業員は仕事の意欲を失っている。



その恐怖によって、給付された現金を使わずに溜め込んでいるのではないか?



これから先、どうなるかわからないから、お金は使わずに取っておこうと誰もが思うはずだ。



だとしたら、今が株価の底値!


ここから大きくリバウンドして株価は上がっていくはずだ。



『株は悲観の中で買え』


俺は、昔勉強した格言を思い出していた。

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