第10話 ポォーラの秘密の窓

 デニッシュが、魔王城の十五階に帰ってきた。

「ただいま帰って来ました。ジョハリ様」

「お帰りなさい」

 連続殺人吸血鬼れんぞくさつじんきゅうけつき討伐とうばつに成功したデニッシュは、ケガひとつなく生還せいかん

 しかし、服も肌もボサツが出した血で汚れている。

報酬ほうしゅうの三十万円は、あるかしら? 」

「はい」

 デニッシュは、デニッシュ型のバッグから札束を出した。

 ジョハリは、その札束を確認した。

 一万円札いちまんえんさつ三十枚さんじゅうまいすべてある。

 無駄遣むだづかいせずに持って、来られたようだ。

「影武者の試練、合格。褒美ほうびとして、ここから十分の所にある、銭湯せんとうに行きましょう」

「てえぇぇ、待ってぇ! 」

「うううん? 」

 ポォーラが、ジョハリとデニッシュを呼び止めた。

「ここの近くの銭湯は、魔法少女だと一人ひとり三百円さんびゃくえんだよ。たくさんお釣りが来る。コンビニで時間じかんつぶそうよ」

「今は午後七時ごごしちじ。一時間後には、銭湯は、閉まるは」

「時間を潰す余裕は、ありません」

「うーん……」

 ポォーラは、次の作戦に出た。

「風呂なんて、一人で入れるよ。ここで、入ろうよ」

「ここの城には、風呂はないわよ」

「ジョハリ様のおっしゃるとおりです」

「……」

 結局、ポォーラはジョハリ達と一緒に銭湯へ行った。


 魔法少女市まほうしょうじょし第一銭湯だいいちせんとう

 木造もくぞう和風建築わふうけんちくの銭湯。

 魔法少女市には、銭湯が三ヶ所さんかしょある。

 魔王城の近くにある、第一銭湯はその一つである。

 ジョハリ達三人は、番頭ばんとうさんに三百円ずつ支払った。

 そのあと、脱衣所に行き、かごに服を入れる。

 真っ裸の状態になったら、服が入った籠を木の棚に入れる。

「サモン! 」

 ジョハリが、全身ソープと洗面器と大きさが違う二種類のタオルを召喚。

 大きいタオルだけを、自分の籠に入れた。

「これで、準備が出来たわね」

「はい」

「では、入りましょう」

 ジョハリは、ガラス戸を右に引いた。

 そして、ジョハリとデニッシュは、全身ソープと小さいタオルが入った洗面器を持って大浴場へ入った。

 その様子を,ポォーラはちゃんと見ていた。

「狙い通り。これで、僕の秘密が守れる」

 ポォーラも、全身ソープと小さいタオルが入った洗面器を持つ。

 そして、ジョハリ達より五分遅れて大浴場に入った。


 ポォーラは、大浴場の中を見た。

 ポォーラがいるのは、女湯。

 たくさんの女性客が、ポォーラを囲んでいる。

 しかし、ジョハリとデニッシュの姿がない。

「ふうぅ……」

 ポォーラは、安心した気持ちだ。

「とりあえず、体を洗おう」

 ポォーラは、手前から六番目の椅子に座った。

 蛇口の温度を、一番低い温度に設定。

 もう一度蛇口をひねって、頭にシャワーをかけた。

「冷たあっ! 」

 ポォーラ同じくらいのおっぱいをした黒のショートヘアーのお姉さんが、飛んできた冷水に驚いた。

「うううん……」

 黒のショートヘアーのお姉さんは、おっぱいを揺らしながら右を見る。

 ポォーラは冷水を浴びながら、白い髪をみ込んでいる。

 けれど、なにかがおかしい。

 ポォーラの髪は、先っぽからどんどんけていっているのだ。

「この子、病気かしら? この子の友達を呼んでくる」

 黒のショートヘアーのお姉さんは、ポォーラの友達を探しに行った。

 一方、ポォーラは、シャワーを止めて、全身ソープで頭を洗っていた。

「うぅぅぅぅぅ……目がしみそう……ソープかけ過ぎたか……シャワーをで流そう」

 ポォーラは、もう一度冷たいシャワーを頭にかけた。

「ぶわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……シャワーきもちいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! 」

 ポォーラの頭にかかった泡が、洗い流された。

 そして、ポォーラは、目の前の鏡を見る。

 そこには、ジョハリの顔が映っていた。

「へぇー。ポォーラて、ハゲなんだ」

「正確には、はげているように見えるっかなぁ」

 ポォーラが、ジョハリの顔を見た。

「ふふーん……」

「や、やばい……」

 ポォーラが、大事していた秘密がバレてしまった。

「あの、お姉ちゃん。ハゲてるよー」

「ハゲてる? マジ、受ける」

「すっげぇ、はげてやんのぉー」

「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははは! 」

「わはははははははははははははははははははははははははははははははははははは! 」

「ふはははははははははははははははははははははははははははははははははははは! 」

「うはははははははははははははははははははははははははははははははははははは! 」

「ぐはははははははははははははははははははははははははははははははははははは! 」

「がはははははははははははははははははははははははははははははははははははは! 」

「ぶはははははははははははははははははははははははははははははははははははは! 」

「だはははははははははははははははははははははははははははははははははははは! 」

「ぎゃははははははははははははははははははははははははははははははははははは! 」

「ばはははははははははははははははははははははははははははははははははははは! 」

「びゃははははははははははははははははははははははははははははははははははは! 」

「りゃははははははははははははははははははははははははははははははははははは! 」

「うう……」

 女湯に、ひどい笑い声がひびいた。

「ぐうぅぅぅぅぅ……」

 ポォーラは、泣き出しそうな表情になった。

 それは、頭を洗面器で隠すほど。

「ううん……仕方ないわね……」

 ジョハリは、天井に両手のひらを向けた。

「ううん? 」

「ううん? 」

「ううん? 」

「ううん? 」

「ううん? 」

「ううん? 」

「ううん? 」

「ううん? 」

「ううん? 」

「ううん? 」

「ううん? 」

「ううん? 」

「ううん? 」

「ううん? 」

「ええっ? 」

 ジョハリが魔法を使おうとした時、笑い声が一瞬で消えた。

「申し訳ございません……」

「ご友人様ゆうじんさまでしたか……」

「無礼なことをしてすみません……」

 女湯にいる人間達が、ジョハリとポォーラに頭を下げた。

 そして、何事もなかったかのように体を洗った。

「何があったんだろう? 」

「あたしも、悪いことをしたわ。ごめんなさい」

「どう致しまして」


 ジョハリとポォーラは、さわぎが落ち着いたところで水風呂に入った。

 壁には、二人が挑んだ守張山しゅばりやまがある。

「あのダンジョンをクリアして、一週間経つのね」

「ああ」

「ポォーラは、水風呂は平気なのね」

「ああ、お父さんが上位モンスターのポラリスだからね」

「だから、熊耳なのね」

「魔法女王こそ、水風呂は大丈夫なの? 」

「島巡りに行った時に、何回も水風呂に入ったから大丈夫よ」

「ポラリス血縁けつえんじゃなくても、水が平気なのがいるんだね」

 ポォーラは、右にある風呂を見た。

 右にある風呂は、水風呂の二倍の広さで、湯気が立つほど温度が高い。

「ううん? 」

 ポォーラは、水風呂に近い所を見た。

 角っこで、お尻がプカアァーと浮いている。

「魔法女王! 」

「どうしたの? ポォーラ」

「デニッシュがふやけた! 」

「ポォーラ。それを言うなら、のぼせたでしょ! 」

「ややこしい……」

 ポォーラは、頭をかかえた。

「それよりも、デニッシュは、吸血鬼ではなく風呂に殺されそうね。デニッシュを助けましょう」

「あ、はい! 」

 ジョハリはデニッシュを助けた後、ポォーラと一緒に脱衣所へ行った。


 体をき終わったジョハリは、大きいタオルでデニッシュを拭く。

「ああ、わたしは風呂入るのぼせやすくて……」

「弟子を持つのって、大変ね……」

「お待たせ」

 ポォーラが、ジョハリの所にやって来た。

「へぇー。いつもの感じになったわね」

 透明とうめいだったポォーラの髪は、元の真っ白な髪に戻った。

「僕の髪は、乾くと元に戻るんだ」

「あなたの髪は、どうなっているの? 」

藁毛わらげだよ。毛がストローみたいになっているんだ。毛の中に水が入ると透明とうめいになって、かわくと白になるんだ」

「ポォーラ様は、変わった特徴とくちょうをお持ちなんですね」

「それより、早く着替えて。帰りましょう」

「うん!! 」

 ポォーラとデニッシュは、ジョハリの前に服を置いた。

 その後、ジョハリが籠と籠の間に自分の服を置いた。

 そして、両手のひらをかざす。

「クリーニング、リメイク! 」

 すると、三人の服が新品同様しんぴんどうようのキレイな状態になる。

 そして、ジョハリ達は、自分の服を着て魔王城に帰った。

 


 



 


 

 



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