第5話 おもちゃのステッキ

 空が、オレンジ色にまる時間。

 叶は、おもちゃのステッキを持って帰ってきた。

 おもちゃ屋さんは、ギルドからバスで十五分。

 叶の実家は、おもちゃ屋さんからバスで十五分。

 青いLの建物の一階が、叶の実家だ。

「かなえねーちゃーん! はやくまほうのステッキちょーだーい! 」

「はいはい! 」

 奇跡きせきは、四歳の金髪の女の子。

 この時の奇跡は、魔法少女が描かれたパジャマを着ている。

 髪の毛は、伸ばした状態だ。

「じゃあ、はこをあけるよー! 」

 奇跡は、箱を開けた。

 出て来たのは、先っぽに桃色のハートがついたステッキ。

 奇跡がステッキの一番下を押すと、ハートの周りが白くピカピカと点滅する。

「ねえーちゃん。このステッキは、まほうしょうじょがまほうでだしたの? 」

「うううん」

 叶は、頭を横に振った。

「あたしは、魔法少女さんと仕事をしたの。それで稼いだお金で、そのステッキを買ったの」

「まほうしょうじょさんは、おしごとしてるの? 」

「うん。魔法少女さんだって、夢を叶えるためにお金を稼いでいるの」

「……」

 奇跡は、少し黙った。

 自分の世界にやって来た魔法少女は、テレビでよく見る魔法少女とは違う。

 お金のために、魔法少女をやっているのだと。

「……やっぱり、きせきもまほうしょうじょさんにあいたい。おかねは……ムリだけれど……まほうしょうじょさんから、まほうをみせてもらったら、なにかプレゼントしたい」

「いいアイデアだね。じゃあ、プレゼントは、何がいいかなぁ? 」

「うーん……」

 奇跡は、考えた。

 自分が渡せる物なら、何でも渡したい。

 折り紙のつる

 紙ヒコーキ。

 てるてる坊主。

 紙風船。

 似顔絵。

 しかし、お金をかせげると言うことは、自分の世界にやって来た魔法少女は大人。

 せっかく作った物は、ゴミとして捨てられちゃうかもしれない。

 すると、叶が提案した。

「おにぎりは、どうかな? 」

「おにぎり? 」

「魔法少女さんは、仕事を頑張っているでしょ。おにぎりを食べて元気になってもらおうよ」

「うん。おにぎりなら、きせきでつくれる。けれど、いつまほうしょうじょさんにあえるかなぁ? 」

「ちょっと、待ってて……」

 叶は、スマホでジョハリに電話をかけた。

「あ、繋がった。魔法女王。今、何しているの? 」

「ブラックコーヒーとツナ缶で、晩酌ばんしゃく

「晩酌? ブラックコーヒーなのに? 」

「コーヒーも酔うでしょ」

「それ、カフェイン中毒だよ。それより、妹の奇跡があなたに会いたいって」

「ああ、そのことね。月曜日は、元冒険パーティーと焼肉パーティーだから、難しいわね」

「『パーティー』が二つ……ややこしい」

「そう言われても……うあ、GW《ゴールデンウィーク》なら、会えるよ。裏世界では、学校は休みだし」

「じゃあ、そうする。GWに実家に来てね」

「では、お休み」

 ジョハリは、電話を切った。

「奇跡。魔法少女さんは、GWに会えるよ」

「ほんと! じゃあ、ゴールデンウィークまでまってる」

 奇跡は、GWに魔法少女と会えることが楽しみになった。

 うれしくて、三週間さんしゅうかん前倒まえだおししてほしい気分だ。

 


 夕食の時間。

 奇跡は、長方形の黒いテーブルの前の黒い椅子に座った。

 叶達の夕食は、冷しゃぶと素麺そうめん

 冷しゃぶは、冷蔵庫から出して深皿に移すだけ。

 素麺そうめんは、一、二分ゆでて、丼に移すだけだ。

 叶の両親は、仕事で忙しいため料理を作るのは朝だけ。

 夕食で足りない分は、叶が作っている。

 叶がおっぱいを揺らしながら、テーブルに素麺と冷しゃぶを置いた。

「ズッ……ズッ……ズッ……ズッ……ズッ……ズッ……ズッ……ズッ……ズッ……ズッ……そーめん、おいしいね♡」

 叶が、黒い椅子に座る。

「冷しゃぶも食べななよ。瑞々しくて、美味しいよ」

「きせき、れーしゃぶきらい。レタス、はいってるもん」

「魔法少女さんだって、野菜を頑張って食べてるの。奇跡も頑張って食べなよ」

「はーい! むぐむぐむぐむぐむぐむぐむぐむぐむぐむぐむぐむぐむぐむぐむぐむぐ……」

 奇跡は、魔法少女のためにも頑張って冷しゃぶを食べた。

 そして、完食。

「うーん。オレンジジュースほしー」

「やっぱり、口に合わなかったかー」

 




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る