転生したらショベルカーだった
まさか無機物に生まれ変わるなんて、誰が想像しただろうか。
なんの偶然か、子供のころによく穴を掘っていたことがあったのか、はたまた生前の行為が良くなかった罰なのか、その逆なのかもしれない。
人間だったころに在籍していた会社に限界まで追い詰められて、自ら人生を考えることを決めた結果、目が覚めた時にはショベルカーになっていた。
命を粗末にした罰なのかもしれない、とショベルカーなりに納得した。
しかし、転生したばかりのころは失望したものだ。
なにせ自分の意思で動くこともできない。
機械の身体ゆえ眠気や食欲が無縁かと思われますが、そんなことはない。
燃料が減れば食欲もわいてくるし、働きすぎればちゃんと疲れる。
働きたくないから自主的に人生を終えたために、強制的に実践されることになるなんて、不本意極まりない。
まったく不便な身体だと思っていたが、力自慢であることは誇らしく感じていた。
人間だったころは比較的弱い立場の人間だったと思う。
いじめというほどではないが、学生時代から言われたこともあれば、お金を渡したこともある。会社にいれば身体の大きな上司に何度も怒鳴られていた。
それが、ショベルカーになってからというもの、人間の手では掘れないくらいの掘削を行うことができるし、建物の解体をする姿は、人間だったころに漫画や映画に出てくる怪獣そのものだ。
時間の経過とともにショベルカーであることにも慣れてきた。
人間だったころよりも人の役に立っているという認識はある。
そう思っていたが、大きな不安だけはどうしても払拭できなかった。
ショベルカーの一生に終わりは来るのだろうか。
人間だったころの知識を探る限り、重機である自分には人間のような寿命という概念がない。
万が一死ねない身体だったとしても、自分はこれから生まれ変わることもなく、ショベルカーとして生きていかなければいけないということだ。
ショベルカーとして生き続けることは自分にとって幸せなことなのだろうか。
面白くないことは当然として、好きな女の子と一緒になることもできないし、夢を追うこともできない。
ただ。もしショベルカーではなく、スズメやリスのように小さな生き物に生まれ変わっていたら、いつ食べられてしまうかもしれない恐怖を抱えながら生きていかなければならなかったに違いない。
ショベルカーからというもの、短気な工事現場の人に蹴られたことは数回あったが、なにぶん高額がゆえに、大事な人間であったころよりも丁重に扱われることも多く、喧嘩を売られることなんて皆無だった。
ショベルカーとして生き続ける。そんな生き方もありなのかもしれない。
次第に受け入れられるようになってきたころ、なんだか身体の調子が悪くなってきた。
いつもならすんなり稼働できていたのに、身体が思うように動かない。掘削しているとすぐに息がきれてしまう。
やがて、終わりが近づいていることは気づいていた。
部品の故障なのか、バッテリーがあってなくなったのか、ついに動かなくなってしまった。
故障したショベルカーはどうなったのだろうか。遠ざかる意識が天寿を完全にできることを宣言していた。どうやら生きたままスクラップにされるなんて無残なことにはならなくて済みそうだ。
薄れる意識の中、長い間運転してくれていた男の声が差し込む。
「お疲れさん」
ああ、人間だったころから、ずっと、この言葉が聞きたかったんだ。
次生まれ変わったら、また重機がいいな。
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