禁断の遊戯

ほんの少し未来の話。


人類が歩行から卒業してから数十年が経過していた。


カプセル型の歩行機が開発されると、人々はそのカプセルの中に入り、位置情報を入力することで目的地まで連れて行ってもらえることが当たり前になった。


最初はただの移動手段だったが、競争が激しくなり、各社が機能を競い合った結果、人々は生まれた時から命を終えるまでカプセルの中で生活できるようになった。


いまや満員電車などは過去の話で、狭い箱の中に何時間も詰め込まれることは非人道的な歴史の一部として教科書に記録されている。


しかし、人間は刺激を求める生物であり、安全なカプセルの中で暮らす人々の中には、夜な夜なひっそりと集まり、想像もつかないような危険なショーを繰り広げているらしい。


ひとりのジャーナリストが人脈を頼りに禁断の夜会に潜入することに成功した。


彼は口外すれば命を失うと何度も警告されたが、カプセルの普及により犯罪が減少している中で、それは説得力に欠ける脅しに思えた。しかし、そうした脅威を受け入れざるを得ない状況にジャーナリストは直面した。


ジャーナリストは目的地を入力し、紹介された夜会に向かった。会場にはテレビで見かけるような資産家や一般の人々、そして表の世界とは異なる風貌の者たちが集まっていた。緊張した空気の中、ついに夜会が始まった。その驚くべき場面に目を疑いながら、ジャーナリストは「ありえない」とつぶやいた。なんと、参加者たちが次々とカプセルを出て歩き始めたのだ。「人が歩いている」とジャーナリストは呼吸を乱してしまった。さらに驚くべきことに、カプセルを出た人々は生き生きとしており、飛び跳ねるように活気づいていた。


ジャーナリストは混乱した。一体何が起こっているのだろうと彼は考えた。そんな時、ひとりの資産家らしき男性が声をかけてきた。「おや、あなたは外へ出ないのですか」と。潜入中のジャーナリストは真実を話すことはできなかったが、困惑する彼に対し、男性は笑顔で言った。「初めてなのですね。安心してください。これは自分で歩くことによってしか得られない快楽です。」


ジャーナリストは後悔した。自分はまるで別世界に飛び込んでしまったようだった。

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