機械の秘密

 ヒトミは物心がついたころからとある工場で働いていた。


 その工場の中では機会によって時間が決められ、機械が人々を支配していた。生と死も機械の手に委ねられ、不定期に鳴るブザーの音が、古い労働力を連れ去り、二度と戻らないことを意味していた。


 ヒトミはその中でただ黙々と仕事をこなしていた。自分も同じようにいつか廃棄されるのだろうと諦めていた。しかし、ある日、彼女の単調な日々に変化が訪れた。


 新しく工場にやってきたおじいさんが、ヒトミに話しかけてきた。自分にも同じくらいの年齢の子供がいたのだとおじいさんは自分が外の世界から工場へ避難してきたのだと話した。


 ヒトミは工場の外の世界の話に興味をもった。外の世界でも自分と同じように機械に支配されているのか気になったのだ。


 おじいさんが話した外の世界はヒトミの想像とは異なっていた。工場の外の世界は過去の人間同士の争いによって荒廃し、人が生きていける場所がなくなり、避難した先に行きつく場所がヒトミたちの暮らしている工場だというのだ。


 おじいさんの話は彼女に希望を与えた。自分たちは機械に支配されているだけでなく、機械によって守られているのだと理解した。


 しかし、その翌日、おじいさんは突然機械によって排除されてしまった。


 ヒトミは疑問に思い始める。なぜ来たばかりのおじいさんは廃棄されてしまったのか、その理由を知りたい、そして、機械の意思ではなく、自分が思うように好きなだけ生きていたいと願った。


 ヒトミは機械の監視をかわしながら、工場の奥深くへと進んでいった。足元を照らす暗い蛍光灯が、廃墟のような工場内を淡い光で照らしていた。その中を彼女は静かに歩みを進め、不気味な静寂が彼女の心をゆっくりと包み込んでいった。


 彼女は頼りない足音を立てないように気をつけながら、迷路のように入り組んだ通路を進んでいった。時折、遠くで機械の動作音が聞こえ、彼女の心臓はドキドキと高鳴った。しかし、彼女は決意を持って進んでいく。


 やがて、工場の奥にある管制室へとたどり着いた。その入り口に立った彼女は、静寂と不安に包まれた空気を感じながら、勇気を振り絞って中に足を踏み入れた。


 その場所で彼女が目にしたのは、生まれたばかりの赤ちゃん。そして、その赤ちゃんの目の前にはひとつのボタンが置かれている。彼女は衝撃を受けた。そのボタンの持つ意味がおそらく自分たちの命につながっているのだと理解ができたからだ。


 ヒトミは、抗うことのできない運命を受け入れることを決意する。機械の支配下にある世界で、彼女はただ黙って生きることを選んだ。

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