不思議な短編集

催眠の響き

　電車の中で、泣きながら座禅を組む女子高生。その異様な光景に乗客たちは困惑し、距離を置いた。しかし、女子高生の隣に座っている黒づくめの男が何かをしていることは誰の目にも明らかだった。

　ひとりの青年が、勇気を振り絞って男に尋ねた。「なにをしているんですか？」

　男は一言、「催眠術だよ」と答えた。

　青年は恐怖に震えながらも、それ以上尋ねることはできなかった。電車が停車すると、女子高生は座禅を組んだまま男に連れ去られた。放っておけないと思った青年は、男の後を追った。しかし、いつの間にか視界から男と女子高生は消えていた。

　夜が更ける頃、青年が眠りにつくと突如として身動きが取れなくなった。金縛りに違いない、と思ったが、青年の耳元で男の声が響いた。「催眠術だよ」

　青年は身体が麻痺する中、その言葉を聞いた。その瞬間、彼の意識は闇に包まれ、深い眠りに落ちていった。

　青年が意識を取り戻すと、目の前には見知らぬ景色が広がっていた。不思議なことに、彼の周りには人影もなく、ただ静寂が支配している。彼は一体どこにいるのか、どうしてここにいるのかを理解しようとしたが、記憶が曖昧で、何も思い出せなかった。

　青年は歩き出し、不思議な場所を探索した。しかし、いくら歩いてもなにも見つからない。

「ぼくは、なにをしているんだ」

　何もない世界で、ただひとり、青年は目的も何もなく、たださまよい歩いた。

　やがて彼は、その不思議な場所から目覚めることができた。目を覚ましたとき、彼は病院のベッドに横たわっていた。一連の出来事が夢だったのか、それとも現実だったのか、彼は判断がつかなかった。

　青年は突然目が覚めなくなったまま病院に運ばれたのだと説明された。

　青年は目を覚ました後、まるで一夜のうちに別の世界に行ったかのような錯覚に陥っていた。病院のベッドに横たわりながら、彼は自分がどうしてここにいるのか、何が起きたのか理解しようと必死だった。

　しかし、医師たちの説明は彼の混乱を解消するのに十分ではなかった。彼が突然意識を失った原因や、その間に体験した不思議な場所については何も説明されなかった。青年は自分の中に残る疑問や不安と向き合いながら、日々を送ることになった。

　数日後、青年は病院を退院し、普段の生活に戻った。しかし、彼の心にはあの不思議な体験が引き起こした深い疑問と不安が残ったままだった。

　ある日、電車に乗っていると、再び不思議な出来事に遭遇する。同じ女子高生が泣きながら座禅を組み、周囲の乗客たちは彼女を避けるようにしている。そして、彼女の隣にはあの黒づくめの男が座っている。青年は戸惑いながらも、前回の出来事を思い出し、その男のことを思い出す。

「また、催眠術を……」青年は不安に震えながら自分に言い聞かせた。

　しかし、今回は違った。青年は勇気を振り絞り、男の元に歩み寄った。

「やめてください！」青年が大声で叫ぶと、周囲の乗客たちも驚いて振り返った。

　男は青年をじっと見つめ、微笑んで言った。「君は覚えているんだね」

　青年は驚愕し、男の言葉に動揺した。

　そして、青年の心にまた催眠術の言葉が響いた。